エピローグ 


「遅いな仁、足立さんも」


 パリのシャルル・ド・ゴール空港で仁たちが出てくるのを待つ。


「もう足立さんではありませんよ?」 


「あっそうか、もうあらた夫人か。あいつもとうとう年貢の納め時だな」


「あら、あなたも私の時はそんな風に思ってたのですか?悲しいです、あの時はあんなに情熱的に口説いたのに……」


「そんなことあるかよ。今でも俺は幸せものだと思っているよ」


 愛しの妻の頬にキスを落とす。

 スペインへ移住して四年、大分こちらに染まってこれくらいでは照れなくなった。


「おいおい、天下の往来で見せつけてくれるな?」


「ひゃー!熱々だねー」


 後ろから久しぶりの声が聞こえてくる。


「おせーよ仁。それとお前もこれくらいはするようになるよ」


「久しぶりですね、新くんと沙織ちゃん」


「あの羅怜央がねー。スペインに染まった?」


「かもな、お前もそのうちフランスに染まって「ジュテーム」とか言うんじゃね?」


「あははは、その仁くん見たいかも!」


「沙織さん……で良いかな?あらた夫人?」


「うん、あはは……なんか照れるねー今更だけど」




 仁は卒業後、東京のチームに入って二年目からレギュラーを張るようになった。

 そのまま順調にキャリアを重ねて、次のシーズンからフランスのパリに拠点を置くチームへ移籍。

 それを機に東京の大学を卒業した安達さん改め沙織さんと結婚、一緒にフランスへ来たという次第である。

 ちなみに結婚式はこっちの教会で、俺たちだけ列席して執り行われることになった。その為に今日ここで再会したというわけだ。


「さて観光行こーぜ!ベルサイユ宮殿!凱旋門!エッフェル塔ー!」


「はいはい、その後打ち合わせだからね!」









月日は流れて……


「あなた、あのオファー受けますの?」


 年を経ても変わらず美しい我が妻が聞いてくる。


「ああ、現役の最後は日本でと、前から話していただろう?」


「はい、なら帰国の準備をしなければですね」


「うーん、一年〜二年の話だからお前はここに残ってもいいんだぞ?仁たちもここに居るし……」


「なに言ってるんですか?あなたが居ないのに私がここに残っても仕方ないでしょう?あの子も家を出ましたし私も行きますよ」


 当たり前のように言ってるが、俺たちはもう二十年バレンシアに住んでる、ここが第二の故郷みたいなものだ。

 それを俺が行くからと普通に付いてきてくれる、こいつは幾つになっても変わらず愛してくれている……


「頭が上がらんな、いつもありがとう」

 

「今更なにを言ってるんですか、私が好きでやってることですよ」


愛しの妻の額にそっと口付けた。














 不意に目が覚めた、こんなに頭がはっきりしてるのはいつ以来だろう。


「あなた、目が覚めましたか?」


「華音か?」


「あら、久し振りにその名で呼ばれましたね羅怜央くん?」


「はは、懐かしいな……」


「くすくすそうですね、でも昨日の事のよう……」


「華音」

 

「はい?」


「夢を見たよ……出会った頃の夢だ……」


仁が居て沙織さんも居た、あの騒がしくも輝いていた頃……


「そうですか」


「華音は今と変わらず綺麗だった」


「あらあらお上手ね」


ああ、やはり華音と話すのは楽しいな……


「華音……」


「はい、羅怜央くん」


「手を握ってくれないか?」


「はいはい、こんな手で良いならいくらでもどうぞ」


「華音の手以外は要らない」


「くすくす、こんなおばあちゃんを口説いてどうする気ですか?」


俺にはあの時から華音しか居ないよ……


「もうひとついいか」


「なんですか?」


「キスをしてくれないか?」


「……!あら……あらまあまあどうしましょう?この歳になって恥ずかしいですね」


「駄目か?」


「そんな事ありませんよ」


ああ華音の顔が近くにある、唇が……熱い。ああ華音の顔が離れていく……ああ愛おしい……


「今までありがとう」


ああ、華音の顔が霞んでいく……


「どう………いたしまして」


「華音と一緒に居れて幸せだった」


 もう眠たい、まぶたが重たいんだ……寝てもいいか?でも、まだ……一緒に居たい……


「私もですよ?」


「たとえば……君がいるだけで、俺は幸せだ……と思えるから……」


「羅怜央くん?」


「……………」


「羅怜央くん……おやすみなさい。……でも、すぐに追いつきますからね?私は周回遅れを追いついた女です。必ず追いついてみせますよ?」




○月○○日のバレンシア新聞朝刊

『「ンドバシュの覇王」逝く……常勝バレンシア黎明期の名ブスカ「monarca」根都 羅怜央氏 逝去、享年90歳……最愛の夫人に見送られながら永眠』




その49日後……

根都 華音、家族に見守られながら永眠


「羅怜央くん?待たなくても良かったのに……でも嬉しいですよまた会えた……」


幸せそうな笑顔だった……















◇◆◇◆


お読みいただきありがとうございます。



これにて羅怜央くんと華音さんの物語は終了です。


最後は駆け足になってしまいましたが概ね書きたいことを書けました。ンドバシュとか……

私の初の連載作品が想定以上に多くの方々に読んでもらえて、ラブコメ週間ランキングで 最高36位にランクインすることが出来ました。

これもひとえに皆様のおかげです。


あとは番外編を2つ投稿して完結です。


もう少しだけお付き合いください。


次回も読んでいただけると嬉しいです。



宣伝です!

新連載始めました!サレ妻の復讐ものです。


https://kakuyomu.jp/works/16817330665273163974


興味があれば読んでいただけると嬉しいです。

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