第5話 名前呼びをする事にロマンを感じる広宮さん


 目が覚めて一番最初に言った言葉は


「あー腹減った……」


 だった……まあ一晩寝て体調が良くなったということだろう。てか昨日はここ最近にはないほどしっかりとした夕食を食べたんだけどなー。

 

 しかし、一晩明けて冷静に考えたらすごくね?あの【NTR高校の氷姫】が夕食を振る舞ってくれて、倒れた俺の看病までしてくれたうえ、オッパイまで揉ませてくれたんだぜ。いやまぁ最後のは事故だけどね?ホントだよ?


「しかし柔っこかったなー……こうむにゅっとして」


 昨日は熱のせいで逆に冷静でいられたまであるけど、熱が下がって平常に戻るとこうなんというか高校生男子のリビドーがですね……昨日のことを鮮明に思い出させるのですよ。


あー鮮明に思いだしついでに嫌なこと思い出した……

おふくろへの定時連絡今日だわ……

昨日の広宮の件、言わないわけにはいかないよなー。


傘に入れてもらってそのお礼にコーヒーを振る舞った。

再来した広宮を追い返しきれずに入室させた。

倒れた際に介抱してもらったため追い出せなくなった。


 多分最初と最後は俺の自己管理についてお小言喰らうけど許されると思う。あと広宮には後日おふくろからお礼の電話なり、帰国時に挨拶に伺うなりがあると思う。

 問題は真ん中なんだよなー。どう考えても俺の押しの弱さに付け込まれた形なんだよ、でもそれを相手のせいにすることを多分おふくろは許さない。


「うーん困った」


「何が?」


「いやおふくろへの定時連絡どう凌ごうかなーと」


「凌がなきゃいけないの?」


「そりゃあ凌げなきゃ強制連行だもんさ」


「何それ聞いてない!!」


ん゙?


「って、いつの間に入ってきた?」


「柔っこかったなーのあたりからよ。で、強制連行ってどういう事?」


「ほぼ最初からじゃねーか」


「質問に答えて!」


えらい剣幕だな。なんでこんなに慌ててんだ?


「いやどういう事もなにも。ひとり暮らしするにあたって約束事を設けた。で、それに違反したと看做されればオヤジの赴任先へ強制連行ってわけだ」


隠さなきゃいけない相手とは別れたし普通に説明した。

広宮は何かを察したように、


「もしかして……昨日私を泊めたことも……違反になっちゃいますか?」


「あー……うーん。えーと」


返答の歯切れの悪さに肯定と確信したのだろう。


「だから私の両親に説明すると言ってまで、私を帰宅させることにこだわったんですね」


そう言って皆を魅了する漆黒の瞳からポロポロと涙を流して、


「ごめんなさい!ごめんなさい!このままだと私のわがままのせいであなたからンドバシュを取り上げてしまいます!!そんな事になったら私はどう償ったらいいのかわかかりません!!」


その場に泣き伏した。俺はそれを見て、ちょっと焦りながら、


「いやいや、広宮が泣くような事じゃねーよ。俺がちゃんとお前を説き伏せて帰らせていたら済む話だったんだ。それにまだ強制連行って決まったわけじゃない、定時連絡でおふくろを納得させればいいんだから余裕だヨユー」


 まあここで誰かのせいにして思考停止してどうにかなるなら楽なんだけどねー。そんな事してもどうしようもないから、前向きに考えよーぜ前向きに!


「グスン……そうですね。泣くなら強制連行が決まってから、泣いてすがって謝ってあなたに着いて行きましょう。それよりも今はお義母さまを納得させることに全力を尽くしましょう」


「なんか着いていくとかおふくろに対するイントネーションとかいろいろ不穏だけど、それはさておきまずは腹ごしらえだな。さっきから腹減っててさ」


「くすくす、昨日倒れたのが嘘みたいね。はい体温計、念のため測っておきましょう」


 感覚的にはもう全快ぽいけど素直に受け取り脇の下へ差し込む。

 しばしの沈黙の後測定終了。表示は36.9℃平熱だな。


「うん平熱ね。でも大事をとって今日は部活休んだほうがいいわね」


「うーん駄目か?」


「駄目よ。ちょうどお義母さまへの対応を協議しないといけないし休んで頂戴」


 協議ってえらい仰々しいな。てか、こいつ自分もこの件にこれからも絡むつもりか?まさかな……

あとやっぱりイントネーション気になるな。


「えー、刈り上げゴリラと仁になんて言おう……」


「普通に大事をとって休むじゃ駄目なの?……駄目そうねあの二人相手だと」


なんか広宮が納得してるし……


 流石に熱のある奴相手に部活に出てこいとか言う連中ではないけど熱下がったしなぁ。てか普段だったら普通に部活出てるし。


「えーと、部活出ちゃ……駄目?」


と小首をかしげて可愛く(笑)言ってみる。


「え?なにこの根都くん可愛いんですけど?これはもはや根都くんではなく羅怜央くんですね。キャー名前呼びしちゃった!羅怜央くん……良い響きですね、これで行きましょう。やっぱり部活に行かせちゃ駄目よね?駄目よ無理してもしぶり返したらどうするのですか。お義母さまの説得もしなければいけませんし、ここは心を鬼にして止めないと」


なんか小声で呟いている。いや突っ込むなり鼻で笑うなりしてくれないと恥ずかしいんだけど……てか前にもあったなこんなこと。


「広宮?なん「なんでもないわ」さいですか……」


「ところで羅怜央くん?」


「いきなり名前呼び!?」


「ところで羅怜央くん。あの二人への連絡だけど私がしてもいいかな?」


名前呼びは確定なのか?……てか、広宮があの二人に俺の事で連絡?


「はぁ?何言ってんの?意味わかんねえ、普通に俺がするけど?」


「でもね羅怜央くん?羅怜央くんだと押しに弱いからあの二人に押し切られちゃう……」


「えっ?どういう評価になってるの広宮の中で俺の評価……」


そんなに評価低いの?なんで?


「まあいいわ。その話は後にしてまずは朝食にしましょう。お腹すいたんでしょ?」


いろいろと納得がいかないが、メシとなると行かざるを得ない。腹減ってんだよ……


「はい、すいません、御馳走になります」





 朝食も普通に美味かった。シャケの切り身を焼いたもの、卵焼き、味噌汁と御飯……完璧です、イッツパーフェクト!


「美味かった……ご馳走さん」


「お粗末さま。ホントに美味しそうに食べてくれるから嬉しいわ」


「いやホントに美味かったしな……お礼にコーヒー淹れたいと思うけど飲むか?」


「あらうれしい、羅怜央くんのコーヒー美味しかったもの頂くわ」


 我が一家皆コーヒーにはこだわりがあるんだわ。


「てかさっきから名前呼び確定かよ?」


「嫌だった?」


広宮の問いにコーヒー豆を出してミルに入れながら、


「嫌つーか、ビックリだな。俺たち昨日出会ったみたいなものだぜ?距離の詰め方が急だわ」


「時間って関係あるのかしら?付き合い始めていきなり名前呼びするカップルだって居るわ」


「俺らはカップルじゃねーよ。お前のファンから闇討ち喰らうから勘弁してくれ……。というかなんでこんなに急に距離詰めて来んだよ?」


昨日から感じていた疑問を投げかける。

広宮はしばらくミルが豆を砕く音を聞きながら押し黙り、ミルが完全に止まってから、


「内緒」


とにっこり微笑んだ……





「部活休むならそろそろ仁に電話しないとなー」


コーヒーを堪能したあとに俺が告げた。

メッセ?こういう公的な連絡は直接しないと気が済まない。


「私が話すわよ?」


「やめてくれ。別の意味で揉める未来しか見えない」


仁の番号をコールしながら釘を刺す。


『珍しいな羅怜央おまえがメッセじゃなくて電話をしてくるなんて?』






〜 広宮 華音 Side 〜



 羅怜央くんが新くんと電話で話してます。

男の子の砕けた会話を聞くのは新鮮ですね。


「今日の部活休むわ」

「いやいや冗談じゃなくてな……」

「昨日の雨で濡れちまって風邪ひいたんよ」

「仮病じゃねーよ!!」

「いやいやいやいや」

「マジでマジで」

「ちげーよ、いよなは関係ねーよ」


 しかしなかなか話が進みませんね……しかもなんか今、カノジョさんの名前が出てきましたし。


「むー話が進みませんね」


ついつい声を出してしまいました。

羅怜央くんがギョッとした顔をこちらに向けました。


「女の声?そんなのするはず無いじゃないですかハハハ」


あっこれバレましたね。仕方ありません。


「羅怜央くん、ちょっと貸してください」


「おい!」


羅怜央くんからスマホをもぎ取って耳に当てると、


「もしもし」


『っ!君は?』


「新・キャプテン・仁くんですよね?」

「あっやべ」


 彼のフルネームで確認を取ったところ羅怜央くんが慌てた声を出した。ん?


『誰だ、てめぇ』


はて?さっきは優しげだったのに、なにかドスの効いた声に変わりましたね?


「仁はミドルネーム呼ばれるとキレるんだわ……」


そういう事は早く言ってください……


「んんっ、失礼しました新くんですか?」


『そうだが誰だあんた?』


 謝罪して言い直すと声が一段落ち着きましたね、優しい方のようです。


「はじめまして、お電話で失礼します。広宮 華音と申します」


『は?マジで?』


「はい。間違いなく広宮 華音です。もしよろしければビデオ通話に切り替えてお話しさせて頂いても結構です」


『いいよ別にそこまでしなくても。そんな嘘をつく意味がない』


一瞬で理解してくれて話が早くて助かります。


『で、その広宮さんが俺に何の用だ?なぜ羅怜央の所にいる?』


「はい、その事をお話しさせて頂こうかと思いまして、

お電話を代わっていただきました」


「奪い取ったくせに……」


羅怜央くんが拗ねています。拗ねた顔も可愛いですね。


「私がなぜ羅怜央くんの所にいるか。それが羅怜央くんが今日なぜ部活をお休みするのかの説明にもなります」


『え……ちょ……ま?羅怜央くん?』


羅怜央くんが額を抑えて俯いてます。新くんも私の名前呼びを認識しましたね。ふっふっふっこうやって既成事実を作り上げて名前呼びを定着させましょう。


「昨日私が………………………






〜 根都 羅怜央 Side 〜



「なので大事をとって今日はお休みさせたいと思います」


 広宮が理路整然と俺を休ませる理由を説明していた。

うむこれは勝負あり、ハラショー今日は休みだわっはっは。まあ後のこと考えると憂鬱だけどね……


「はい、はい、では羅怜央くんに代わります」


『よぉ、羅怜央くん』


「やめろ、やめろください」


『やっぱり昨日言った通りだったろ?女運』


「だからやめろや!」


『まぁ、コーチには言っといてやるから今日はゆっくり休め。休められるならな……クックックッ』


「そういう悪役ムーブは良いから……じゃあ頼むわ」


『おう、広宮さんによろしくー』


「あいあい」


仁との通話を切って俺は広宮と向き合う。


「さてと……広宮さんや」






◇◆◇◆



お読みいただきありがとうございます。


華音さんが徐々に加速しています。


皆さまのおかげで、ラブコメ週間 55位 総合週間 325位にランクイン出来ました。やったね!


次回も読んでいただけると嬉しいです。



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