番外編 ある男のその後
あの事故で右脚を失いそのうえ視力も失くしたと思って絶望していた。幸い失明は事故のショックからの一時的なもので、しばらくすると回復した。
しかし、ンドバシュが出来ない喪失感から無気力になった俺を見かねて、おふくろが一枚のブルーレイディスクを持ってきた。結果的にそれが俺の光明になった……
そこに映っていたのはンドバシュだった。ただし選手全員が車椅子に乗ってプレイしている、いわゆる車椅子ンドバシュというものだ。
俺のように身体に障害が有ってもプレイ出来るようにルールを整備されているが、それは間違いなくンドバシュだった……俺は涙を止めることができなかった。
俺の奪われたンドバシュが戻ってきた、それならやらない手はない。俺は車椅子ンドバシュを始める準備に取り掛かった。
俺がやりたいのは競技としての車椅子ンドバシュだ、その世界に飛び込むためには何もかもが足りなかった。
スピーディに車椅子を動かすための腕力、その動きを持続させるための持久力、車椅子同士の激しい当たりに負けないためのパワー、片脚を失ったことに起因するバランスの変化への慣れ、全てが足りなかった。
元々ンドバシュ選手としての俺はサウジ型の選手だったため、スピードとクイックネスには自信があったがパワーが足りなかった。
なので徹底的に肉体改造を行うことにした。地獄のように過酷な練習メニューだった(なぜかNTR高校ンドバシュ部顧問の高知監修の練習メニューだった)が、ンドバシュの出来ない地獄に比べたら何倍もマシだ。
そうして一年かけてなんとか納得出来る肉体を作り上げた。
親父の伝手で車椅子ンドバシュのクラブチームの練習に参加して、初めてゲームを行ったとき純粋に楽しかった。
その縁でそのクラブチームに加入、全日本に選ばれるまでになり変な異名まで付けられるようになった。
なんで長々とこんな事を話しているかと言うと、この異名が縁である二名のンドバシュ選手と対談することになったからだ。
そのひとり目は元名路羽高校の「皇帝」現在国内リーグの強豪チームで中心選手としてプレーしていて、あいかわらず「皇帝」と呼ばれている山田選手。
そしてもうひとりが、スペインのバレンシアで五年目のシーズンに入り、不動のブスカとしての地位を確立。現地では「monarca(モナルカ)」と呼ばれる、日本ンドバシュ界のパイオニア。日本代表の「覇王」根都 羅怜央……選手。
主催者に連れられて対談のための部屋に入ると、そこにはもうひとりの男がすでに入っていた。
「久しぶりだな山田」
「以前のテレビ出演以来かな「帝王」?」
「それはやめろ!」
「はははは、あいかわらずこの名を呼ぶと照れるね?」
「慣れてるお前がおかしいんだ「皇帝」!」
なんでこいつも根都もこんなふうに呼ばれて平然と出来るんだ?羞恥心が無いのか?
「今日は根都も来るんだよな?」
「僕もそう聞いてるよ。ははーんあまり露出したがらない君が対談を受けた理由は根都くんかい?」
「フン、お前らと違って俺たちにはあまり助成金が下りないんだ。少しでも露出して車椅子ンドバシュを周知しなきゃいけない。それくらいは弁えている」
「そんなに卑下しなくても良いだろうに、現役のンドバシュ選手のギャラから1%を、協会費とは別にンドバシュ振興の名の下に徴収するように仕向けた辣腕さん?」
「なんのことだ?それにあれは俺たちだって対象だ、お前たちだけが痛いわけじゃねーよ」
ここはトボケておこう。しかし、実際ホントに俺たちに下りる助成金はすずめの涙だった。それを少しでも貰えるように動いた結果だ。労働の対価というやつだな……いいじゃんお前ら稼いでるんだから。
「ホントに謙遜がすぎるよ。そうは思わないかい奥さん?」
俺の車椅子を押す、今日は絶対に来ると言って聞かなかった妻に声をかける。
「そんな事ないですよぉ、謙遜なんて過大評価ですぅ」
理由は頑なに教えてくれないが、産婦人科医を目指して医学部に入ったこいつとは、車椅子ンドバシュを始める準備のために一年浪人して入った大学で再会した。
最初はお互い居ないものとして接触を持たずに過ごしていたが、こいつがやたら昭和臭を臭わせるやつにナンパされて困っていたところを、助けたのが縁でまた付き合いが出来てしまった。
その後もいろんなことが有ったが気づいてみればこんな事になっていた……
どういうつもりで俺と一緒になったのか分からないが、今が幸せだと言うのだからそれで良いのだろう。
「そういえば、君と根都くんは同じ高校出身だったね?」
「っ!そうだな、それがどうした?」
チッ、動揺してしまった。妻は平然としてんな……
「別になんでも無いけど、彼と絡みとかなかったのかなって思っただけだよ?」
「フン、直接はなかった。ンドバシュ部に入部して練習参加する前に、事故ってこんな体になったからな」
「……!ごめん……デリカシーなかったね」
「昔の事だ、もう乗り越えた」
そうだ、車椅子ンドバシュに出会って俺はもう乗り越えた。だから今日こそどんな形でも、あの日できなかった区切りをつける。
「茶楽雄くん……」
「大丈夫だ」
「奥さんはどうして今日はここへ?根都くんのファンなのかな?」
山田は多分空気を変えたかったのだろう。気持ちは分かる、だがそれは悪手だ……
「あたしはぁ、ラーく……いいえ根都くんの元カノなんですよぉ」
「うわぁ、地雷だったー!!」
「どうした「皇帝」流れを変えてみせろ?」
「うわぁぁん!旦那が煽ってくるー!」
「クックックッ天下の「皇帝」がみっともないぞ?」
「うわぁぁぁん!畳み掛けてきやがったー!」
「ラーくんからぁ今の旦那に寝取られたんですよぉー?」
「さらに爆弾投下?なにしたいのこの夫婦?」
山田を夫婦でいじり倒しながら時間を潰していると対談開始の時間の十五分ほど前になった頃、
「根都選手がビルに入りました!」
「良かった……やっと来てくれた……」
「根都……」
「ラーくん……」
扉が勢いよく開かれた。
◇◆◇◆
お読みいただきありがとうございます。
茶楽雄くんと奥さんのその後です。
まさかの結婚ですよ、ビックリですね!
書いてる途中でいきなり奥さん登場で私もビックリしました。筆が勝手に動くってああいう事なんですかね?
このあとどうなったかは、皆さんのご想像におまかせします。修羅場になったかもしれないし、意外と和やかな対談になったかもしれません。皆さんでいろいろ考えてみて下さい。
これにて拙作は完結です!
今まで読んでいただいてありがとうございました!
宣伝!新連載始めました!
サレ妻の復讐ものです。
コンテスト出品予定の作品になるので、
応援していただけると助かります。
https://kakuyomu.jp/works/16817330665273163974
読んでいただけると嬉しいです!
チャラ男にあざと可愛いカノジョをNTRされたけど、その後学校一の美少女に何故か猛アピールされるようになった ごっつぁんゴール @toy1973
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