第27話 時の過ぎゆくままに

〜 広宮 華音 Side 〜


 中間テストがあるから、地区大会を控えているから連れてこれない。

 母が羅怜央くんを連れて来いとせっついて来ていましたが、これらの理由でずっと断ってきました。


 しかし地区大会も終わりを迎えて、断る理由が無くなりました。

 さらに、もうすぐ羅怜央くんとデート……キャー!デートですって照れます!ン……コホン、お出かけがあるので下手な干渉をさせないためにも、一度羅怜央くんを実家に連れて行ったほうが良いと判断しました。


 今は食後のコーヒーを頂いて、まったりしているところなのでお話しするのに丁度良いです。


「羅怜央くん、少し良いですか?」


「どうした?華音」


「実は実家の母が羅怜央くんに会いたがっていまして、もし嫌じゃなければ一度実家に遊びに来ていただけませんか?」


 私の図々しいお願いに、羅怜央くんは顔をしかめています。あぅ嫌なのでしょうか困りましたね……


「話の内容はともかく、なにやら不穏な言い回しが有ったのが気になるんだけど……」


 おや?内容より言い回しが気になるようですね。何か変な事言いましたでしょうか?


「内容はともかくということは、遊びに来てはいただけるようですね?」


「言い回しの件はスルーですか……そうですか。まあこないだ送ってもらったときも、遊びにおいでとかすみさんにも誘われたしな」


 ああ、新くんに徹夜で勉強を教えた翌日ですね?あの時ははしたなくも車中で寝てしまいましたので、そんなやり取りがあったとは知りませんでした。


「あら、そうなんですね。だから母もああもせっついていたのですかね」


「そりゃどーもだな……それで、いつ頃伺ったら都合良いかな?」


 まあ母はほぼ家に居ますのでいつでも良いといえば良いのですが、どうせなら父が確実に居ない日が好ましいのでそうですね……


「でしたら次の土曜日などはどうでしょうか?」


羅怜央くんもスマホに記載した予定を見ながら、


「分かった、その日は部活も休みだしちょうどいいわ」


 あっさり日程が決まりましたね。そうです日程といえば、


「そういえば、この間お話していたお出かけの件ですが、負けちゃいましたし無しですか?」





〜 根都 羅怜央 Side 〜



「そういえば、この間お話していたお出かけの件ですが、負けちゃいましたし無しですか?」


 華音にしては珍しく煽っているように聞こえる言い回しが、おかしくてちょっと意地悪をしたくなった。


「そうだな、負けちまったしなー。あれは勝つ前提の話だったしなー、どーしよーかなー」


 分かりやすくイジってやると、物凄くホントにものすごーくしょんぼりした顔になって、


「そうですよね、負けてしまって気落ちしてるのに、何処かに遊びに行くなんて出来ないですよね……ぐす」


 凄く悲しそうに、今にも泣き出しそうに瞳を潤ませて諦めようとしている姿が、とても可哀想なのだが可愛くも感じてしまう。いかんちょっと目覚めそう……


「ごめんごめん意地悪しすぎた!冗談だから。もちろん遊びにいこーぜ?いつ行こーか?どこ行こーか?全部合わせるから許してくれ」


「ぐすん……ホントですか?」


「ホントホント、これは嘘じゃねーから!」


「ならそろそろ期末テストも考慮しなければいけませんし、次の日曜日に遊園地に行きたいです」


「おうふ、土日連チャンですか……」


「駄目……ですか?」


「駄目くないです!行きましょう!」


「ありがとうございます……嬉しいですよ」


潤んだ瞳で花が咲いた様に微笑む。その顔ズルいわー





 時は進んで早くも土曜日……


 なんか期待の新人が入部したが、速攻退場したとかなんとかあったそうだ。俺は知らないほうが良いと、仁が言ってたので知らないことにした……


 ふん、そいつもついてないやつだな、俺の前にツラ出しやがったらこき使ってやったのに……勝手に事故に巻き込まれやがって……


『今更ラーくんには関係ない話かもだけどぉ、知っておいて欲しかったんだぁ。そういうやつがいたってことぉ。まあ、あたしの自己満足みたいな?』


 なんか昔みたいないい笑顔で、そんな事をあいつに言われたら毒気も抜けちまう。あいつがそう言えるってことは、これでホントに全部終わったという事なんだろう……


 過ぎゆく時に想いを馳せていたからだろう、後ろからそろりそろりと近づいてくる人の影に気づかなかった。

 

「わっ!」


「のわー!!」


びっ!びっくりしたー!!誰だいったい!


「プークスクス、のわーですって、あの時みたい。クスクス」


 犯人はしてやったのが余程楽しかったのか、くすくす笑ってやがる。てか大体いたずらする時はクールモードだな……


「いきなりなにしやがる!ビックリしただろが!」


「驚かせる為にしたのだもの、びっくりしてもらわないとつまらないわ」


うわぁ悪びれてねぇ。


「覚えてやがれ、コノウラミハラサデオクベキカ」


「怖いわね……勘弁してくれないかしら?」


「対価によるな」


「午後のコーヒータイム手作りケーキでどう?」


「交渉成立だ」


「それは良かったわ。では行きましょうか?」


「ん、どこへ?帰るのか?」


「あなたは何をしにここまで来たの?」


呆れる華音の顔を見て目的を思い出した……


「あーそうだったな、この一連のやり取りで忘れちまってたわ」


「まったく、しっかりして頂戴。はいこれ」


「ほいほいサンキュ、お土産はこの最中で良いのか?」


「そうよ母の好物なのだけど、なかなか手に入らない物なの」


 それをどうやって手に入れたのかは聞かないほうがいいのかな?

 準備は整った……ではいざ行かん。


「そういえば……華音の親父さんって会ったこと無いな」


 何気ない、ホントに何気ないひと言だった……そのひと言を聞いた華音が、ビクッと動きを止めギギギと首をこちらに向ける。


「それは父に会いたいということですか?」


 どうも俺の何気ないひと言は、華音のクールモードを解除するほどのひと言だったらしい。


「いや、そういう訳ではないんだけど、単純に会った事無いなーと」


「そうですか……ではいつか機会が有りましたら遠目にでも……そうですね300メートルくらい離れた所からでも会ってやって下さい」


華音にしては珍しく毒のある冗談だな……


「いやいや、それだと話せないじゃん!」


「え゙?父と話したいのですか!?」


驚愕の表情でこちらを凝視するほどのことなのか?


「こほん……いえ、ではいずれ」


「そ、そうだな……」


この話題は危険なようだ。これ以上はやめておけと本能が教えてくれている。





 広宮のお屋敷へ到着、敷地内に入るのは華音と初めて会った翌日以来だから久し振りだ。

 その時も感じたが、門から玄関までの庭の造りは落ち着いてて好きだな。その事を華音に伝えると、


「それは母に言ってあげて下さい。庭造りは母の趣味なんです」


「へーかすみさんいい趣味だな」


「くすっ、母も喜ぶと思いますよ」


庭先を抜けて玄関へ、


「ただいま帰りました」


「おかえりなさい華音、それといらっしゃい羅怜央くん。よく来てくれました」


「お邪魔します。かすみさん、この間はありがとうございました。これつまらない物ですけど」


「あらあら、これ大好物なのよ?ありがとう頂きますね」


「じゃあお茶を淹れて来ますね」


 華音はお茶を淹れにお土産を持ってキッチンへ、かすみさんは俺を応接間へ案内、ってなんかデジャヴなんだけど?で、かすみさんが何故か俺の隣に座る、ほらやっぱり!


「かすみさん?なんでまた隣に座りますかね?」


「そんなつれない事言わなくても良いじゃない、私の隣で寝た仲でしょ?」


 そう言いながら以前のようにしなだれ掛かってくる。

またいい匂いするし、柔らかいし、


「車の助手席で、ですよね……」


「隣は隣よ♪寝顔可愛かったわよ?」


さらにくっついてくる……遊ばれてるなー


「かすみさん離れましょう。うわぁ」


「キャッ!あんっもう乱暴ね♪」


 かすみさんの肩を掴んで引き離す、あっかすみさんその腕を掴んで後ろに倒れやがった……





〜 広宮 華音 Side 〜



私は今何を見ているんだろう?


ソファーの上で羅怜央くんが母に覆い被さり、母が羅怜央くんの首に腕を回してます。


「……………うわぁ」


「……………あうぅ」


「………………愉悦」


 その後は混沌カオスでした。羅怜央くんが状況の説明?言い訳?を早口でまくし立て、私はその言葉が頭に入って来ず、ただただ右往左往してました。

母はそんな私達を見てクスクス笑ってるだけでした。


 結局事態が収まって、冷めたお茶でカラカラに渇いた喉を潤したのは十五分後でした……

 母が悪ふざけをして羅怜央くんが巻き込まれただけの事でした。結論、母が悪い。


「だって、羅怜央くんをからかうのが楽しいんですもの♪」


「勘弁して下さい……」


 母は全然悪びれず、羅怜央くんはゲンナリしてましたし、私も母に対して怒る気力も湧きませんでした……


 結局この日は終始母にからかわれ続けて、母だけが肌をツヤツヤさせていました。

 

 門まで帰宅する羅怜央くんを送り出して、心からの謝罪の言葉を伝えます。


「うぅ……ホントーにごめんなさい」


「華音が悪いわけじゃない。俺もかすみさんがそういう人だって分かってきたから……」


「あの愉悦好きさえなければ良い母なんです」


「ああ、それは送ってもらったときにそう思った。ふぅ……まあとりあえず帰るわ……」


「何のお構いもできませんで……」


「くっくっくっ、そんなに畏まるなよ」


 ……やっぱり優しい人です、嫌な思いをしたでしょうに私を慮ってくれてます。


「はい、では明日も楽しみにしてますね」


「ああ、俺も楽しみにしてるよ。てか、楽しもう」


「そうですね、楽しみましょう。ではおやすみなさい、気を付けてお帰りください」


「うん、おやすみ、じゃーな」




◇◆◇◆


お読みいただきありがとうございます。


間話と本編を繋ぐための話でした。

これでいよなちゃんの出番は終わりです。


次回は何気に第一話以来のデートシーンです。

ラブコメさんがウォーミングアップを始めました。


次回も読んでいただけると嬉しいです。

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