第23話 元幼馴染の誘惑

 綾乃を追い払い、俺は玄関を施錠。これで一安心だ。


 リビングへ戻ると藍が眠ってしまっていた。



「……」



 いろいろあったし、疲れていたのだろうな。仕方ない、このままソファに寝かせておいてやろう。

 俺はカップ麺を作ったり、風呂に入ったり……日常生活を進めた。


 相変わらず藍はスヤスヤの夢の世界。


 ――まあいいか、明日は“土曜日”だから泊ってもらっても問題はない。


 しかし眠くなってきた。

 まぶたが異常に重く、ソファの近くの床に寝っ転がっていれば……いつの間にか寝てしまっていた。



 ◆



「……赤くん。ねえ、起きて、赤くん」



 体を揺らされ、俺は起床した。あぁ……もう朝か。


 目の前には藍の姿があった。

 こんなに近い距離で起こされるとか、子供の頃以来だ。


「お、おはよう」

「昨日は寝ちゃってごめんね……。疲れていたみたい」

「いいよ。あんなことがあったし」


 時計を確認すると、朝の九時だった。結構深い眠りについていたらしい。


「じゃあ、そろそろ帰るね」

「そうだな。いったん帰った方がいい」


 どうせ近所だし、藍の両親とは面識もあれば、かなり信頼されている。俺の家に泊まったと言っても問題はないはず。


「また来てもいいかな」

「構わないよ。家は両親いないし」

「うん、じゃあまた来るね」


 藍は一度帰ることに。ならばと俺は玄関まで見送った。

 近所だから大丈夫だとは思うけど。


 玄関の扉を開けた瞬間、人影が俺に突っ込んでこようとした。――って、まさか!!



「赤くん、やっと玄関開けてくれた!!」

「あ、綾乃!? ずっとそこにいたのかよ!!」

「うん、ずっと待ってた。おはよう、赤くん。それに藍」


 目の下にくまが出来ているぞ……。

 玄関の前で野宿していたのかよ。なんて諦めの悪いヤツだ。



「ど、どうして……どうしてここにいるの綾乃!」

「久しぶりね、藍。転校にはなったけど、こうして自由の身よ。昨晩は赤くんの家の前で寝て待っていたの」


「もう関わらないで! 警察呼ぶよ」


「ちょ、都合が悪ければすぐに警察とかさ!」


 綾乃は、藍のスマホを奪い取ろうとした。だが、俺が阻止した。



「やめろ、綾乃。マジで通報するぞ!」

「せ、赤くんまで……。昨晩、言ったでしょう。えっちさせてあげるって! それで仲直りでいいじゃん!」


「うるさいだまれ!」


「……けちー」


 そんなことで俺は惑わされないぞ。

 藍を守るって決めたんだ。

 だから……だから!


 俺は綾乃の腕を掴んだ。



「藍、今のうちに帰るんだ! 綾乃はこっちでなんとかしておく!」

「う、うん……! なにかあったら直ぐに連絡して!」


 藍を無事に帰宅させ、俺は綾乃を壁際に追いやった。不本意ながら、自然と壁ドンみたいな形になってしまったが。



「……このままする?」

「するかアホ! 綾乃、お前が股の緩い女だとは思わなかったよ」


「別にいいじゃん。それで男の子は気持ち良くなれるんだし、わたしもお金を稼げて楽しいよ。三日前はおじさんの相手をして十万も稼いじゃった」


 そんなことは聞きたくない!

 憧れの幼馴染がこんな……こんなことになるなんて。


「お前は風俗嬢にでもなる気か!」

「もう勧誘されてるんだよね~。でも、歳が歳だから」

「ああ、もういい! 綾乃、お前は自分の意思で自由に生きればいいさ。だから、俺と藍の生活に入ってこないでくれ」


 きっぱりと言った。

 これが最後の通告だ。

 聞き入れてもらえないのなら、もう警察案件だ。通報して、綾乃をなんとかしてもらう。最終手段としてそれしかない。



「そんなに藍がいいの? 藍より、わたしなら直ぐにえっちできるよ」

「……っ!!」


 綾乃は俺のロケットランチャーの……付近を撫でた。くそ……! そんなところを撫でまわしやがって……。


「ほら、体は正直だね」

「や、やめろ……綾乃」

「キスしてもいいよ。胸だって自由にしていいから」


 耳元でささやく綾乃は、俺の首に腕を回して密着してくる。……あぁ、くそ。昔ならこうしたかった。望みだった。


 けれど今はせいぜい下半身が宇宙のように加速膨張する程度。それだけだ。


 心はまるで虚無。超空洞ボイドだ。


 あんな恋焦がれていたというのに、これほど何も感じなくなるとは自身でも驚いた。


 綾乃はしょせん、体だけ。



「返事は……ノーだ」

「イエスって聞こえた。じゃ、まずは口でしてあげるね……」



 なっ……!



 なあああああああああああああああ!?!?!?

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