第15話 恐ろしき悪事

 急いで例の教室へ向かう。

 昼休みのこの時間帯なら誰もいないし、カメラも回収しやすいってワケだ。


 到着して俺は足を止めた。


「藍、ちょっと隙間から覗いてくれ。俺がやるとヘンタイになってしまう」

「任せて」


 藍に頼み、教室の中を覗いてもらう。

 ……すると、藍は思わず身を引いていた。


「ど、どうした?」

「い、いたよ。木ノ原先生がいた」

「やっぱりか!」

「なにかコソコソとやっているみたい」


 これはもう確定だ。現行犯だ!

 十分、事件として扱える。つまり、俺がこの教室に突撃しても問題ない。正義の為に!


「いくぞっ!」

「……気を付けてね、赤くん」


 正直怖い。

 伝説のプロレスラー・アンドレ・ザ・ジャイアントみたいな筋肉馬鹿を相手にするのは。

 暴れでもしたら、俺は止める自信がない。

 でも、それ以上に藍とか他の女子の盗撮映像が撮られていると思うと、そっちの方が許せないし、何とかしなければと体が動いた。

 それとあんな悪夢を見続けたくない。払拭する為にも俺は立ち向かう。


 扉を開け、教室内へ突撃する俺。


 驚いて振り向く木ノ原は花瓶を戻して、掃除をするフリをしていた。


「な、なんだ紫藤! ……それに古森」

「先生こそ、何しているんですか」

「そ……掃除だ。なにが悪い!!」


 大型台風のような威圧感。語気を強め、木ノ原は俺に向かってきた。そうやって俺を見下し、高圧的な態度で反撃してくるだろうとは思ったさ。


 想定内。屈する必要なんて何もない。


 ただ俺は指摘する。この男の犯罪を!


「木ノ原先生……この前、藍に花瓶の設置を頼みましたね」

「それがどうした。普通のことではないか」

「それ、藍を盗撮する為でしょ」

「……っ!? な、なにを言う! タラを言うんじゃない!」


 顔を真っ赤にして鼻息を荒くする木ノ原。おいおい、顔に“やっています”と書いてあるぞ。実に分かりやすい。



「じゃあ、証拠を出しましょうか」

「ま、まて……! 紫藤、お前を雑に扱っていたことなら謝る……! 確かに、お前を目の仇にしていたさ。だが、それはささなこと。これからはお前を優遇してやる!」


「分かりました、先生」

「……紫藤、お前は話の分かるやつだな」


「――なわけねぇだろ!!」



 花瓶を取り上げ、俺は即調べた。すると極小の穴が見つかった。これが盗撮用の超小型カメラか。



「紫藤おおおおおおおおおおおお!! 貴様ああああああああああああ!!!」



 発狂する木ノ原が図太い腕を伸ばして俺の首を絞めようとしてくる。だが、偶然にも床に落ちていた何かで木ノ原は足を滑らせ――倒れた。


「なんだ?」

「……く、くそっ。忘れていた」


 木ノ原の足元には女子の下着があった。こ、こいつ……まさか盗撮だけでは飽き足らず、下着泥棒まで!?



「うわ……サイテー」



 さすがの藍も顔を青くして引いていた。



「チクショウ……。紫藤、お前のせいだぞ」

「は? なんで俺のせいなんだよ。ふざけんな! 自業自得だろうが! さっさと捕まれ、ヘンタイ教師!」


 睨み合っていると、教室の扉が開いて妃夜先生や若校長がやってきた。そうか、妃夜先生が呼んできてくれたのか……! ナイス!


 なみ みかど校長。女性校長であり、しかも30代と若い。実際は20代なんじゃないかと思いたくなるほど若々しい。



「木ノ原先生、これはどういうことですか」

「こ、校長先生!! いや、これはその……」

「新月先生から聞きました。盗撮をしたのですね……?」

「違います! 俺はただ……学校を守りたくて! そうです! この花瓶のことは任せてください! 俺がなんとかしますから!」


 木ノ原は懐からハンマーを取り出し、俺から花瓶を奪い取ろうとした。証拠隠滅する気かよ! させるものか!


 ひょいっとかわし、俺は校長先生に花瓶のことを説明した。


「校長先生、この花瓶には小さな穴が。中には防水の施された超小型カメラが仕込まれているんです。ほら、ご覧の通り」

「……これはもう言い逃れが出来ませんね」


 校長は静かに、木ノ原を見つめた。

 ヤツは頭を抱え、ついにその場に座り込んだ。これはもう認めたようなものだ。


「違うんです……! 違うんですよ……」

「言い訳は見苦しいですよ、木ノ原先生。警察に出頭しましょう」


 木ノ原の肩に手を置く校長先生。これで終わりだ。

 そう思ったのも束の間。木ノ原は暴れ出し、藍を人質に取りやがった。


「きゃ!? 木ノ原先生、やめてください!」

「すまんな、古森。どうせ俺の人生は終わりだ……! 抵抗してやる!」


 凶器のハンマーで藍を脅す木ノ原。コイツ、まだ諦めないのかよ。それに何度罪を重ねる気だ!

 しかも、木ノ原は俺たちの目の前だというのに藍の制服を脱がしていく。


「木ノ原!! おまえ!!」

「はははは! 紫藤、お前みたいな童貞野郎に古森はもったいねぇ! 俺が古森を隅々まで味わってやる。そこで指をくわえて見てろ!」


 どこまで下劣で卑怯な男なんだ。

 こんな男は教師ではない。ただの性犯罪者だ。



「助けて……赤くん……」



 下着姿にされてしまう藍。耳まで赤くして、涙をボロボロ流して助けを求めている。……待ってろ、直ぐに助ける。



「木ノ原先生、やめなさい!」

「そうです。こんなことをしたら、あなたは一生刑務所ですよ!」


「黙れ校長。新月先生、あんたは校長を連れて出ていけ! さもないと、古森の頭をハンマーでカチ割るぞ!」


「お、落ち着きなさい……!」



 今にも木ノ原はハンマーで藍を襲いかねない。危険を察知した校長と新月先生は言われた通りにゆっくりと後退していく。だが、隙を伺っているようにも見えた。そうだな、一瞬の隙があれば俺も木ノ原を取り押さえたい。


 1秒でも0.5秒でもいい!

 一瞬の時間されあれば!


 祈っていると、木ノ原は藍の体に見惚れていた。今の状況に興奮さえしているのだろう。……ああ、こんな時に藍の肉体が隙を作ることになろうとは!


 しかし、おかげで一発逆転の大チャンスが生まれた。


 今だ……!

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