第16話 決着と束の間の休息

 木ノ原は油断していた。

 藍の腕を強引に引っ張り、俺は手繰り寄せた。よし!


「赤くん!!」

「上手くいった!」


 距離を取り、教室の出入り口へ向かう。逃げるが勝ちだ。

 そしてついに廊下へ飛び出せた。


 扉を直ぐに締め、木ノ原を閉じ込めることに成功。


 その後、校長が直ぐに通報してくれた。……が、扉を強引に開けようと木ノ原は抵抗していた。悪あがきを!



『開けろ! 開けろ!! 開けてくれ!!』



 必死だな、木ノ原のヤツ。

 けどな、お前はもう終わりなんだよ。観念しろ!



 それから異常を察知した生徒や他の先生が駆けつけてくれ、木ノ原を取り押さえた。大人数で押せば怖くない。


 さすがの木ノ原も十人、二十人が相手では抵抗できなかった。



 そうして木ノ原は連行、お縄となった。



 今回の事件こともあり、俺と藍は事情聴取。警察との話を終え、十五時を回っていた。ようやく解放され、早退することに。



「…………ふぅ」

「長かったね、赤くん」

「あ、ああ……なんだか疲れたな」


 ここ最近、事件が多すぎだ。

 もうこれ以上のトラブルは避けたい。……のだが、昔から俺は事件に巻き込まれやすいからなぁ。これも運命なのかね。


 藍と共に学校を出て、そのまま気分転換にカラオケへ。


「カラオケとか久しぶりだね」

「たまにはいいだろ。特に今日はあんなこともあったし」

「そうだね、少しはストレスを解消しないとね」

「だから、今日は俺のおごりだ」

「いいのー! ありがと、赤くん」


 嬉しそうに微笑む藍。その笑顔が見れるだけで俺は幸せいっぱいだ。


 近場のカラオケ店へ入り、JOYJOYSOUNDの機種を選んだ。

 このお店はちょっと特殊でサブスクの有料会員だと、一時間無料、フリードリンクでソフトクリームも無料という大盤振る舞いだ。

 月額が少々高いが、高頻度で利用するなら元は取れる。


 個室へ入って早々、藍は俺の隣に座った。


「……藍、近いな」

「今日のお礼だよ」

「え……」

「助けてくれたから」


 そう言って藍は俺の手すら握ってくれた。


「当然だ。大切な幼馴染だからな」

「うん、嬉しい。赤くん……あのね、あたし……どうしよう」

「どうしようって……?」

「君のこと、どうしようもないくらい好きになっちゃった」


 藍は、頬にキスしてくれた。

 突然の行為に俺は固まった。嬉しさのあまり、硬直してしまった。


 藍が……俺のことを好き?


 これ、夢じゃないよな!?


 現実なんだよな!?


「お、俺もだよ。藍のことが好きだ」

「良かった。断られたらどうしようかと」

「断るわけないだろ。だって、俺の方がずっと藍のことを思っていたんだから」

「そうなんだ。ごめん、気づかなくて」


 今までのことを謝罪するかのように藍は、申し訳なさそうに抱きついてくれた。

 これで俺の不安は完全に取り除かれた。

 もうなにも怖くない。


 ――だが。



『……ブル、ブルブルブル……』



 ん?

 なんだ?


 俺のスマホか。


 振動するスマホ。

 気になって画面を見てみると、そこには『都』の文字が。なんだ、都から電話? なんで今……? アイツは授業中のはずだが。



「藍、すまん。ちょっと都から電話だ」

「え、都ちゃんから? うん……」


 俺はいったん個室から出て外で電話に応えた。


 すると。



『兄さん……』

「あ、ああ……そうだけど。都、どうした?」

『…………兄さんっ。……わ、わたし……』

「なんだ? 妙な音が聞こえるけど」

『な、なんでもないんです。でも、兄さんの声が聞きたくて……』



 都はいったい何をしているんだ……!?

 というか、この電話の意味はなんだ?

 なんで切なそうに声を漏らしているんだ。息切れさえしているし、妙に艶めかしい。


 これじゃ、まるで……まるで……。


 まさか……!


 そのまさかなのか!?

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