第17話 幼馴染のヘンタイプレイ

 聞き返そうとすると、電話は切れてしまった。

 いったい、なんだったんだ……?

 困惑していると、藍が部屋から出てきた。


「どうしたの、赤くん」

「――いや、なんでもないよ」


 俺は誤魔化した。

 このことは都に確認してからだ。

 それからカラオケを終え、帰宅。

 日は落ちかけ、闇が支配しつつあった。


「じゃ、またねっ!」


 自宅の前で藍と別れた。

 手を振って最後まで見守り、俺は家の中へ。


 靴を脱ぎ、家を上がろうとすると――。



「おかえりなさい、兄さん」

「み、都……! なんで俺の家に!」

「……兄さんがいけないんですよ」


「え……?」


「私は兄さんのことが好きなのに……なんで藍ちゃんを好きになってしまったんですか」


 目の前にやってきて真っ直ぐ見つめる都。瞳はどこか虚ろだ。



「な、なんで知っているんだよ」

「そんなことはどうでもいいでしょう。私はね、許せないんですよ」

「なにが……」

「藍ちゃんのことが」

「まてまて、幼馴染じゃないか。穏便に」


 だが、都は不敵に笑った。どうも海外から帰ってきてから様子がヘンだ。



「兄さんは分かっていないんですね」

「……?」

「さきほどの電話は兄さんを止める為でした」


 そういえばカラオケ中に都から電話が掛かってきた。明らかにおかしかったけど……まるで自分を慰めているか、誰かからされているみたいな。あくまで俺のイメージだけど。


「なにをしていたんだ……?」

「決まっているじゃないですか。自分の指で……」


 それ以上は言わなかった。

 なるほど、つまり……って、都のヤツ……なんてことを! この歳でするんだな……。知らなかった。いやけど、都は昔からそういう片鱗があった。

 気にしないようにはしていたが、都は俺とスキンシップするときは興奮していた。そうか、俺のせいでヘンタイになってしまったか。


「お前の気持ちは嬉しいよ。でも、俺は……」

「それ以上言ったら刺し殺します」


 突然ナイフを取り出す都。俺の首筋にあてて脅してきた。……怖ぇ。


「どうしてもか」

「はい。私は兄さんなしでは生きていけません。はじめても兄さんがいい。ずっと依存して生きていきたい……一生甘えたいです」


 それでも俺は……!


「すまない……」

「へぇ、そんなことを言っていいんですかぁ?」

「え……」

「兄さんってばこの前、学校で下半身を露出して楽しんでいましたよね」

「ぐっ!!」


 あの生徒指導室の時か。確かに、藍と木ノ原のことで俺は悩み――結果、興奮して気が狂ってしまった。タイミング悪く都に目撃されていたんだ。

 だが今となっては証拠がない。


「証拠ならあります。ほら」


 スマホには写真があった。

 くそっ、撮っていたのかよ!!


「俺にどうしろって言うんだ」

「藍ちゃんを振るんです。その後、私と付き合ってください」

「なんだって!?」

「写真をバラまきますよ」

「都、お前ってやつは!」


 こうなったら実力行使で、写真を削除させるしか。


「力づくは無駄ですよ。この写真、クラウドに保存済みですから」

「チクショウ!!」


「兄さん、諦めて私と付き合いましょう? もし彼女にしてくれたら、えっちでも何でもでもします。毎日好きにしていいですよ」


 耳元でささやかれ、俺は不覚にも興奮してしまった。

 くそっ、都の覚悟はここまで決まっているのか……。自分の肉体を差し出すという暴挙……俺は圧倒されつつあった。


 まずい、天秤が傾き始めている。


 くそっ、くそっ!!


 俺の恋心はこの程度だったのか……?


 だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ!!!


 屈するわけにはいかないんだ!!!



「み、都…………俺は……」

「兄さんの下半身は正直みたいですね、フフ」


 俺は押し倒され、馬乗りになる都。氷のような瞳で見下してきて、俺はゾクゾクしてしまった。


 ……っあ!


 性欲が爆発しそうだ……。



 だが。



『ピンポーン』



 突如として呼び鈴が鳴り、俺はビビった。やっべ、こんなところを見られたら大事件だぞ。


 俺は、なぜか半裸になっている都を抱き、玄関付近のトイレに閉じ込めた。……ふぅ、これでよし。


 直後、扉が開いた。

 そこには藍の姿が。



「……ご、ごめんね、赤くん」

「藍……どうして」

「今日のこと、もう一度改めてお礼が言いたくて」

「お、お礼か。キスでもしてくれるのか?」


 なんて冗談で言ってみると――。


 藍は飛びついて俺の唇を奪ってきた。



「――――んっ」

「!??!?!?!?!?!?!??!?!!!?」



 五秒ほどして藍は離れた。



「えへへ……。赤くん、またね!」



 素敵な笑顔でまた帰っていった…………。



 藍、俺のために……。



 三分ほど立ち尽くして、俺は都のことを思い出した。

 トイレの扉を開けると、そこには涙をボロボロ流し、虚ろな瞳で俺を見る都の姿があった。……うわ!?



「……酷いよ兄さん」

「み、都。けどな、お前だって勝手に家に上がったり、俺を脅したり酷いじゃないか。そんなヤツにはお仕置きしないとな……」


 俺は都の頭をなでた。

 けれど。


「…………して」


「え?」


「…………首絞めえっちして」


「は!?」



 ま、まさかそんなヘンタイプレイをご所望とは。



 当然却下だ!!

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