第39話 幼馴染の料理が美味すぎて最高の時間になった

「ち、違うんだ、藍! 今、都が貧血で倒れそうになってだな……!」


 大変苦しい言い訳をする俺。正直、バレバレの嘘だ。でも、これで強引に押し通すしかないだろッ!


「そ、そうなんだ。でも……赤くん。なんでズボン履いてないの?」


 よく見ると俺はパンイチ・・・・だった。


 うおッ!?!?


 いつの間にか脱がされていた!!


 どうりで股が冷えると思ったぜ……。って、このままはマズイ!

 光の速さで俺はズボンを穿いて元通りにした。


「なんのことだ?」

「え、でも……」

「気のせいだろ! 都もほら、体調が悪いのなら家に上がっていけ!」


 都を立ち上がらせた。


「に、兄さん……あの、私は別に貧血とかでは……。え? 家に? それなら構いませんが」



 なんとか誤魔化せた。

 ふぅ、危険が危なかった。

 汗を拭いながらも、家へ。



「というわけだ、藍。すまないが」

「うん、いいよ。都には今朝のことで心配させちゃったと思うし」

「ああ、それなんだが、一応さっき話しておいた」

「そうなんだ。それで都は貧血を?」

「あ、ああ……話の内容がショッキングすぎたらしい。だってほら、茂木の兄貴まで登場とか衝撃すぎだろ。しかも刑事に化けていたとか尚更……」


 うんうんと藍はうなずく。

 申し訳ないとは思うけど、でも誤解されるよりはいいか。下手すりゃ、俺はビンタの一撃でももらっていたところだ。藍の優しさに感謝しかない。


「それじゃ、ご飯にしよっか。なんとか三人分も用意できそうだし」

「さすが藍。手伝えることがあったら言ってくれ」

「ありがとう、赤くん。大体はお盆に並べておいたから、リビングに運んでおいてくれる?」

「任せてくれ」


 出来立ての美味そうな夕食を運ぶ俺と都。

 あとはゆっくりいただくだけだ。


「兄さん、このお料理ぜんぶ藍ちゃんが……?」

「そうだよ。俺にはこんな見事な和食を作れない」

「そ、そんな……昔は私より下手だったのに」


 悔しそうに料理を見つめる都。

 そうなんだよな。昔は絶望的なほど料理がクソマズだった。泥を食っているような、そんな料理だったな。でも、気づけば藍はプロレベルに成長を果たしていた。


「努力したんだろう。でも、都も上手かったろ?」

「私は……はい。海外でも料理はしていました。でも、簡単なのしかしていません。しかもこんな完璧で愛情のこもっていそうな料理は凄すぎます。あとは味ですが……」


 味は言うまでもないだろう。

 そもそも、俺は昼食に弁当を作ってもらっていた。だから味は保証されているのだ。

 完璧すぎるほどに完璧な味付けがな。


 リビングに移動して、さっそくテーブルにつく。


 白飯、豚汁、塩魚、煮卵、からあげ、豆腐、サラダとバランスの良いメニューだ。料金の取れるレベルだぞ……。



「「「いただきます!」」」



 みんなで手を合わせ、さっそく藍の手料理を味わっていく。

 俺はまずは豚汁を……うむ、最強にうまい。汁が濃厚で味わい深い。肉たっぷりで最高に幸せだ。



「……うまいっ!」



 俺が正直に感想と言うと、都が叫んだ。



「そんなあああああああああああああああああ……!!!」


「「!?」」



 絶望しているような、そんな表情だ。



「ど、どうした……都」

「美味しすぎるんです……。ご飯も豚汁も、なにもかもが」


 めちゃくちゃ感動して涙を滝のように流しながら、そう言った。まてまて、いくらなんでも感動しすぎろう。いや、どちらかと言えば悔し涙か?


「褒めすぎだよ、都。あたしの料理なんて……」

「謙遜ですよ、藍ちゃん。昔と大違いで私はつい感動してしまいました。素直に美味しいです!!」


 都も絶賛するほどとはな。

 もっと敵対するのかと俺は思っていたんだがな。

 予想外にも都は、藍の料理を賞賛していた。


 やはり、食は人間ひとを幸せにしてくれるなぁ。


 俺はこんな美味い料理を作って貰えて本当に幸せ者だ。


 ひと悶着あるかなと身構えていたけど、和やかな雰囲気で食事は進んでいく。



「はい、赤くん。あ~ん」

「あ! 藍ちゃんズルいです! 私だって兄さんにあ~んをしたいです!!」



 急に二人ともからあげを俺の口元に差し出してきた。



「ちょっと、都。邪魔しないで!」

「藍ちゃんこそ、ちょっと料理できるからって!」



 なんか急にヒートアップしてきた。

 おい、さっきの静かな空気はどこへいった!!

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