第28話 無防備な幼馴染

 飯を食って、あとはリビングでだらけきっていた。

 無気力状態でなにもやる気が起きない。

 あの公園で一件が疲労を加速させた。

 もう動きたくない。


 藍も同様にソファに身を預けていた。今日はもうデートって気分でもない。家でのんびり過ごす方が平和に暮らせるんだ。俺はそれに気づいた。


 ここなら邪魔されずに二人きり。


「最初からこうすれば良かったんだよな」

「家にいれば誰かに襲われる心配もないもんね」

「そうだな、藍。いっそ、ひきこもりになろうか」

「それもありかもね」


 そんな冗談を言い合いながらも、ゲームをしたり映画鑑賞したりして過ごした。

 なんだ、こんな風にゆっくりするだけでも楽しいじゃないか!

 まるで子供の頃に戻ったみたいだ。

 外よりも家の中で過ごすことが多かったし、あの時代は綾乃や藍、都とゲームをよくしていたものだ。



 ――気づけば夜を迎えていた。



 都からのメッセージも入っていた。



 都:兄さん、大丈夫ですか?

 赤:家でゆっくりしてる。問題ないよ

 都:それは良かったです。あの、私も行ってもいいです……?

 赤:……ちょっと待ってくれ



 都が家に来ることを藍にも言わないとな。

 幼馴染なのだから問題はないとは思うけれど、しかし状況が状況だ。



「藍、都が遊びに来たいってさ」

「え~、せっかく二人きりなのに~」


 昔と違ってそういう反応になるわけか。

 やっぱり、もうしばらくは二人きりでいいか。



 赤:すまない、都。明日でいいかな

 都:分かりました。おやすみなさい



 おや……妙に素直だな。

 まあいい、今日のところは藍と過ごす。



 そうして夜は更けていった…………。




 次の日。




『ピンポ~ン』



 なんてチャイムが鳴った。

 トイレから出て、そのまま玄関へ向かう。

 すると、そこにはお巡りさんが立っていた。いや、どっちかといえば刑事さんだな。



「おはようございます。紫藤さんですよね。わたくし、神奈川警察署の村瀬と申します」

「そうですが、もしかして事件の件で?」

「はい。その通りです。殺人事件のことをお伺いしたくてですね」



 俺は今までの事件のことを説明した。



「――というわけです」

「なるほど。それは災難でしたね……。話は大体わかりました。木ノ原先生のことはお気の毒には思いますが、しかし本人も犯罪に手を染めていたとは……。ですが、主犯格の茂木は逮捕となりましたので、ご安心ください」


 中田や平野まで逮捕され、重い罪になるという。これで一安心だ。


「ありがとうございました」

「いえいえ。こちらこそお礼を言いたいですよ」

「え?」

「実は、茂木は危険人物で有名でしてねぇ~。学校の女生徒を何人も襲い、泣き寝入りさせたという。更には凶器を使った恐喝や暴行。警察も必死になって茂木を逮捕しようとしていましたが、平野を上手く利用して度々警察の手を逃れていたようで」


 今回抜け出してきたのも平野の力を使ったものだった。以前から、そんな強力なパイプがあったとは……。そりゃ、やりたい放題になるわけだよ。



「もう学校は安全なんですよね!?」

「はい、もう大丈夫です。安心して登校してください」

「ありがとうございます」


 どうやらもう危険人物はいないらしい。

 これで俺も藍も、そして都も気兼ねなく学校へ通えるわけだ。


 それから刑事さんは去っていった。


 リビングへ戻ると藍の姿はなかった。


 まだ寝てるっぽいかな。

 昨晩は俺の部屋で寝ていたし、おかげで床で寝る羽目になったぜ。


 シャワーでも浴びに風呂へ向かった。


 まずは浴槽を湯で満たそうと、扉を開けた――が。



「「………………え」」



 その瞬間、目と目が合った。


 なぜかそこには裸の……藍が立っていた。


 俺は直ぐに扉を閉めた。



「すまん!!!!」

「せ、せ、赤くん!! どうして扉を開けるのよおおおおおおお……!! ばかばかばかああああああああ!!」


 向こうで叫びまくる藍。

 なんてこった。

 まさかシャワーを浴びているとは思わなかった。

 てか、体細すぎ……肌白すぎだろっ。巨乳すぎだろっ。

 朝から良いものを見れてしまった。



「マジでいるとは思わなかったんだ」

「本当に? ……まあいいけどさ」


 恥ずかしそうに震える声で藍は言い切った。いや、いいのかよ。


「その、藍。悪かった」

「い、いいのいいの……別に減るものじゃないし」

「けどなぁ」

「気に、しないで……」


 俺はゆっくりと風呂場から離れていく。


 少し離れた瞬間、光の速さで自室へ戻り――さきほどの藍の裸を思い出しながら、俺は――。



「ウッ…………!」



 もう一度……。



「ウッ…………!」



 ……ふぅ。



「兄さん……」

「え……」



 え?

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