第29話 大場外乱闘・スマッシュシスターズ

 部屋にはいつのまにか都の姿があった。

 嘘だろ……まったく気づかなかった。


「兄さん、ナニをしていたんですか……」

「こ、これはその……」

「またしていたんですね」

「違う……違うんだ」

「いいえ、いいんです。それに突然押しかけてしまって申し訳ないです」


 ぺこりと丁寧に謝る都。


「ていうか、どうやって入ってきた? ここ二階だぞ」

「ほら、子供の頃に窓からこっそり入れるようにとロープを括りつけたじゃないですか。それを使って来たんです」


 そういえば、綾乃や藍、都を部屋に招くためにそんなものを設置したっけ。ずっと残ったままだったか。忘れていたよ。


「……とりあえず、ズボン履いていいかな」

「ど、どうぞ」


 都は頬を赤くして視線をそらしながらも俺のベッドに座った。その隙に俺は着替えた。


「詳しいことは分かった。そのなんだ……本当に悪い。以前の学校の時といい」

「いえ、良いんです。私はそういうところも含めて兄さんが好きなんです」

「いいのかよ……」

「はいっ。その代わり、私だけを愛してください」


 抱きついてくる都。


 俺は……。

 こんな俺を許してくれるなんて都は優しいな。


「ありがとう。でも――」


 言いかけたそのとき、扉が開いて藍が入ってきた。



「赤くん、ちょっといいかな――って!! なにこれえええええ!!」



 俺と都がくっついているところを見るなり、藍は叫んで固まった。



「勘違いするな! これは都がだな」

「えっちなことしていました!」

「ちょおおおおおおお! 都!!」



 わざわざ混乱を招くことを言う都。それはアカンて!



「そうだったんだ……。赤くん、酷いよ!」

「まて。誤解だ、藍。俺と都はなにもしていない」

「信じられないよ。黙って二人でイチャイチャしていたんだね……」


「そう見えるだけだ。これは都が一方的にだな」

「むぅ~…」

「信じろ」


 じっと見つめると藍もまた俺を見つめた。

 すると藍は納得してくれた。


「確かに、本当っぽいね。分かった、信じる。その代わり……都!」


 藍は、都に指を指す。


「なにかな、藍ちゃん」

「赤くんを賭けてあたしと勝負しなさい!」

「兄さんを? 構いませんけど、種目は?」

「ゲームで。ほら、昔よく対戦したアクションゲームがあるでしょ」

「大場外乱闘・スマッシュシスターズですね」


 子供の頃、めちゃくちゃ流行ったゲームだ。

 ギンテンドーの誇る有名キャラクターが集結。ただし、女性キャラクター限定。好きなキャラを選んで格ゲーみたいに殴り合い、場外にぶっ飛ばしたプレイヤーが勝利みたいなヤツだ。

 武器は金属バットに包丁、爆弾などなにげに過激。


 そうか、そのゲームで戦うんだな。平和的でいいけどさ!


「二人ともそれでいいのか……?」



「やるしかないでしょ。赤くんを取られたくないし!」

「私もです。兄さんをこれ以上、藍ちゃんの好き勝手にはさせません!」



 二人ともメラメラ燃えていた。

 俺の取り合いになるとは……。

 しかもそれをゲームを決めるなんて――いや、いいか。実際に殴り合ったり、殺人事件になるよりはよっぽどいい。

 もうこれ以上のリアル事件は避けたいのだ。


 俺はゲーム機とソフトを押し入れから引っ張りだし、液晶テレビに繋げた。

 古いゲーム機だから色々変換が面倒だ。



「はい、コントローラー」



 藍に都――そして、俺の分。



「え、赤くんも参加!?」

「兄さんも!?」


「当たり前だろ。俺もゲームに参加したいよ。昔みたいに遊ぼうぜ」


「え~…それじゃバトルにならないよぅ」

「兄さん、すっごく強いですし」


 その通り。俺はこの大場外乱闘・スマッシュシスターズを極めていた。このゲームは女性キャラクター限定だが、性別不明のマスコット的キャラは取り込まれている。つまり、選択可能なのだ。

 子供の頃の俺は、なんでも吸い込むピンクの悪魔を使い、無双していたっけ。


 そんなわけで俺も参加決定!


 俺が勝てば……二人を自由にしよう。



「それでいいな?」


「ちょっと練習させて!」

「私も!」


 二人とも自信がないらしい。いいだろう、それくらいの猶予は与えてやろう。

 そうして練習時間を設け――いよいよ本番へ。


 大場外乱闘・スマッシュシスターズ開幕!


 残機ライフは5つ。これがゼロになったら敗北だ。

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