第27話 三分間のキス

 中田が茂木を襲っていた。

 吐き気を催す光景を直視できるはずもなく、俺たちは早急に立ち去った。


 そして直ぐに通報。

 パトカーが公園に集結し、俺はお巡りさんに事情を説明した。



「この公園の奥で殺人事件があったんです」

「分かりました。三人はこちらでお待ち下さい」

「はい……」


 複数のお巡りさんが公園内へ走っていく。

 やがて連行される茂木と中田の姿があった。特に茂木は完全に意識を失い、下半身もズタズタのボロボロだった。


 その後、直ぐに現場検証などはじまり、俺たちはずっと付き合わされることに。



 ◆



 ようやく解放された時には日が落ちていた。

 あの事件のせいで一日が終わってしまった。せっかくの休日が台無しだ。


 都は大人しく帰り、藍が俺の家に残った。


「……疲れたね」

「そうだな。いろんなことがありすぎた。まさか今まで襲われた相手が一斉に現れるとは思いもしなかった。想定外すぎたんだ……」


 あの中では間違いなく茂木が悪質だった。アイツは今回の犯行を計画し、殺人を犯した。

 藍を傷つけたり、都を利用したり……とんでもないヤツだった。


 だが、最後は中田に掘られて酷い目に遭っていたが。しかし、あれだけでは足りないほどに茂木は罪を重ね過ぎた。法の裁きを受けてもらいたい。



「赤くん……今夜、一緒にいていいかな」

「……! も、もちろんだ。気が済むまで家にいろ」

「うん。一緒にいる」


 今日の出来事がショックすぎたのだろう、藍は俺の隣でずっと震えていた。俺は自然と藍を抱き寄せ、頭を撫でていた。


「藍、俺がついているから」

「ありがとう。おかげで少し気が楽になった」


 しばらくはソファで身を寄り添い合った。

 そうしている内に藍は俺に身を預け、眠っていた。

 俺もなんだか疲れて……寝心地がよくて寝落ちしてしまった。



『――――』



 ふと目をあけると、藍が慌てて顔を話していた。……ん? なんだ?



「おはよう、藍」

「……お、おはよ」

「どうした、顔が赤いな」

「……そ、それは、その……」


 なんだ、言いにくいことか?

 この際隠し事はしないで欲しいところだが。


「風邪じゃないだろうな」

「違うよ……! 風邪じゃない。というか、お礼してた」

「お礼?」


 首をかしげていると藍は、モジモジと恥ずかしそうにしながらも理由を教えてくれた。


「三分前からずっとキスしてたの……」

「え」

「お礼の……キス」


 顔を真っ赤にする藍は、俺からどんどん離れて台所まで後退していく。そ、そうだったのかよ! 俺、藍からずっとキスされていたのかっ。


 そういえば唇がしっとりするなぁとは思った。

 そういうことだったのか。


「アリガトウ?」

「こっちがお礼をたくさん言いたいよ。赤くん、いつもありがと……好き」


 そんな風に照れながら言われ、俺も照れた。

 今の藍……可愛すぎる。


「なぁ……藍。この際だから俺たち……」

「うん」


 ……付き合おうって言いかけたその時、スマホが鳴った。クソッ、こんな大切な時に!

 しかも相手がおまわりさんだから無視するわけにもいかない。


 俺は直ぐに電話に出た。



『――もしもし、紫藤さんですよね』

「はい、そうですけど」

『事件のことです。無事に取り調べが終わり、茂木と中田は再逮捕という形となりました。今回は殺人事件となりましたので、その報告です』


「分かりました。ありがとうございます」


『それでですね、明日改めてお伺いさせていただきます』

「まだ何か?」

『ええ。平野や木ノ原のことを聞きたいのです』


 なるほど、確かに言われてみればもともとは平野のコネだか何だかを使って茂木たちをシャバに出してしまったらしいからな。となると、平野のことを聞かれるんだろうな。


 あのあと、平野は捕まっていないようだし。


「分かりました。では早朝で?」

『そうですね。朝にお伺いしますので。――では』

「失礼します」


 そこで電話は切れた。

 また明日も大変だ。


「今の、警察?」

「ああ、藍。明日家に警察が来るってさ。平野のことを聞きたいようだ」

「そっか。あたし、いない方がいいかな」

「いや、一緒にしてくれ」

「良かった。赤くん」

「藍……」


 見つめ合っているとお腹が“ぐ~”と鳴った。そういえば、もう深夜前か。


「飯にしようか」

「そ、そうだね。なにか作るよ」


 といっても材料もあまりない。カップ麺で我慢しよう。

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