第21話 寝取られかヤンデレか

 こんなホモ野郎に負けてなるものかッ!

 後ろ蹴りをして俺は中田の股間を強打した。



「ガハあああああああああッ!?」



 ゴチンと轟音が響き渡り、メキメキと中田の大切な部分が破壊される鈍い音がした。

 白目をむき、中田はそのまま倒れた。

 泡ふいて倒れちまった。


 これで掘られる心配はなくなった。

 あぶなかった……危うく俺のケツが大変なことになっていたぜ。


 しかし、そんなことよりも……藍を助けねば!


 扉を開けると茂木がこっちに振り向いた。



「どうした中田――って、違う! 誰だお前!」



 俺の顔を見て焦る茂木。

 押し倒されている藍は半裸にされていた。酷いことしやがって……!


「赤くん!!」

「藍、今助けるからな!」


 そのまま藍を助けようとするが、茂木が不敵に笑っていた。な、なんだ?


「きっと幼馴染の男が助けにくると思ったがな!」

「分かっていたのなら藍を解放しろ!」

「お前、まさか助けられると思っているのか?」

「なんだと?」


 なにを企んでいやがる……?

 いや、もうどちらにせよ、茂木は逃げられない。俺は藍を救出し、この事実を先生に報告する。そして、茂木は終わりだ。


 茂木の行動を警戒しながらも俺は、藍に近づいていく。



 だが。



『――ボコッ!!』



 俺は後頭部に強烈な一撃を食らった。




「があああああああ!?!?」




 床に倒れ、俺は意識が飛びそうになった。

 な、なんだ……急に殴られた、のか。


 必死に体を起き上がらせ、視線を向けると……そこには女子が立っていた。


 中田が戻ってきたのかと思ったが、違った。



 こ、この女子は……都なのか?



 そうか……やっぱり都は茂木とグルで…………!!



「……フフ。油断しましたね、紫藤先輩・・・・

「え……」



 視界がボヤけているせいで、顔が視認できないが……この声といい、呼び方は都ではない!!


 というか、あの昇降口で都に話しかけていたクラスメイトらしき女子ではないか!



「茂木先輩、ダメじゃないですか」

「悪いな、吉田。お前の友達……都だっけ。あの女子を脅してくれて助かったんだが、男が来ちまってよぉ」



 ……な、な!!


 なんだって……!!



 都は脅されていたのか。だから、あんな風に言うしかなかったんだ。俺はてっきりグルだと思っていたんだが……事実は違った。


 この吉田という女子と茂木がグルだったんだ!!


 くそう!!



「キャハハ! 茂木先輩、この古森は本当にムカツクからさ、襲って分からせてやってくださいよ」

「ああ、吉田。任せろや! けど、いいのか。俺とお前は付き合っているはずだが」

「そんなのいいんですよ。古森の泣け叫ぶところは見たいんです!」



 茂木と吉田は付き合っている仲なのかよ。にも関わらず、藍に乱暴を……!

 その時、藍が口を開いた。


「吉田さん……どうして!」

「古森先輩、あんたは人気者でいつも一番で……茂木先輩のことも独り占めして! ふざけんじゃないわよ!」


 なんだよそれ、ただの嫉妬じゃないかっ!

 そんな理由で藍をハメやがったのか!

 これはもうイジメではなく、犯罪だぞ。


 なんとか体を起こそうとするが、吉田が俺の背中を蹴ってきた。



「ぐっ……!」

「お~っと、起き上がらないでくれるかな。紫藤先輩」



 背中を踏まれ、圧迫される俺。い、息がし辛い……。



「や、やめろ! 藍は助けてやってくれ!」

「それは無理。これから茂木先輩が私たちの目の前で凄いことしてくれるの。古森先輩のはじめてがここで奪われるの。あなたの目の前でね……!」



 ニヤリと笑う吉田。悪魔かコイツ!!


 なんとかして体を起こさないと!


 力いっぱい腕立て伏せみたいに吉田の足を押し返す。けれど、吉田の力も強く……俺は再び床を舐めることになった。



「……っ!!」

「残念。私、水泳部で足を鍛えるからね」



 普段なら女子に踏まれて嬉しいはずが、今は憎悪しかない。絶対に許さん……。けれど、抵抗できない。



「赤くん……!」

「……藍、俺は……俺は……」



 手を伸ばそうとするが、茂木が自身のベルトを外し始めた。この野郎!!



「ハハハ! そこで見てろ」

「ちくしょう、ちくしょう!!」



 やがて茂木は藍に覆いかぶさって――あぁ、もうこれ以上は見たくない。……終わりだ。



 絶望しかけたその時だった。



「やあああああああああああああ!!!」



 叫び声と共に、なにかが茂木に激突した。



「ぶふぁあああああああああああああああああああああ!!」



 な、なんだ!

 なにが起きたんだ……?



 顔を上げると、茂木が吹っ飛んで壁にぶつかって倒れていた。



「み、都……なんで!!」

「吉田さん、やっぱり私……兄さんを騙すなんて出来ない。せっかく仲良くなってくれたお友達と思っていたけれど、私……兄さんと藍ちゃんが大切だから!」


 都は物凄いスピードで走り抜けると、吉田の鳩尾みぞおちにボディブローを打ち込んだ。おいおい、ウソだろ。プロのボクシングチャンピオンみたいなパンチだったぞ。


「……つぁッ!?!?」



 吉田は床に倒れ、ヨダレを垂らして痙攣けいれんしていた。

 おいおい、大丈夫なのか……。



「都……助けてくれたのか」

「ごめんなさい、兄さん。あんなことを言うつもりではなかったんです」

「脅されていたんだな?」

「はい。本心ではなかったんです」

「彼女……吉田さんは友達になってくれたんです。はじめての友達だったから嬉しくて……。でも今日になって吉田さんは縁を切ると言い出して……」


 だから俺を脅すように言われ、指示に従ったのだという。

 けれど都は結局のところ情報を教えてくれたし、結果的には助けてくれた。

 そうか、そうだったんだ。


「助かった」

「本当にごめんなさい」

「いや、それよりも藍を助けて出るぞ。このことを先生に知らせるんだ」

「もう先生たちには伝えました。直に来るかと」



 もうそこまで手を回してくれていたか。


 その後、茂木と吉田は先生たちに連れられていった。この分だと退学処分となるだろうと聞かされた。

 水泳部自体も活動がどうなるか分からないという。


 こんな事件が起きたんだ、当面は活動禁止にはなるだろうな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る