第3話 脳を完全破壊された俺

 ネカフェの料金を支払い、俺と藍は外へ。

 二回目の現場を目撃し、脳を完全破壊された俺は、思考もままならない状況だ。なにも考えられないというか……絶望しかない。同時に失望もした。

 胸が苦しいというレベルを超えている。血の巡りが悪い、今にも心筋梗塞でぶっ倒れそうだ。


「大丈夫……?」


 心配そうに俺の顔を覗き込んでくる藍。こんな俺を気遣ってくれる。ここまで付き合ってくれた。藍こそが本当の幼馴染だ。


「少し休めば歩けそうだ。近くの公園で休憩したい」

「分かった。付き合うから、一緒に行こ」

「助かるよ、藍」


 重い足取りで道を歩く。少しすると小さな公園が見えてきた。

 ベンチへ向かい、そこへ腰を下ろした。藍も俺の隣に座った。


「綾乃ちゃんのこと、どうする……?」

「アイツの親に全てを話す。それが唯一の反撃方法だ」

「それしかない……よね」

「すまない、藍。綾乃と仲良かっただろうけど、許してくれ」

「ううん、いいの。赤くんのことが一番大切だから」


 そんな風に言ってくれる藍の言葉に、俺は泣きそうになった。思えば、藍は昔から俺に優しかった。悩みも聞いてくれたし、綾乃のことで相談も乗ってくれた。

 こんなに親身になってくれる幼馴染は、藍くらいだ。


「ありがとう。おかげで少し楽になった」

「あたしもね、綾乃ちゃんのことはちょっと許せなかったから」

「そうなのか?」

「ほら、最近の態度とか。さっきも身勝手だったでしょ」

「確かに」

「前々から、どうかと思っていたよ。幼馴染として指摘もしてきたけど、改善の兆候すらなかったんだよね……」


 残念そうに溜息を吐く藍。そうか、彼女も苦労していたんだな。

 藍と綾乃は小学校の頃からの付き合いだ。もちろん、俺もだが……同じ時間を過ごしていたのは藍の方が多かったはずだ。俺は途中、違うクラスになったりで疎遠になったこともあったからな。


「そうだったのか。藍も苦労していたんだな」

「それなりにね。ていうか、他にも結構あるんだよね」


 思い当たる節があるのだろう、藍は少し疲れたような表情で呆れていた。俺の知らない綾乃の性格の悪さだとか、いろいろあるんだろうな。



「さっそく先回りして報告しに行くか」

「そうしよっか。綾乃ちゃんの家、ここからそれほど遠くないし」



 ベンチから立ち上がると同時に、スマホに着信があった。

 相手は……綾乃か。

 電話は拒否しているが、メッセージはそのままにしていた。そのせいか、たくさんメッセージが飛んできていた。


 覗いてみると。



 綾乃:親に言うのはやめて!

 綾乃:ごめん、謝るから!

 綾乃:……赤くん、怒ってる?

 綾乃:一度話をしよ?

 綾乃:それか、一回くらいなら、わたしを自由にしてもいいよ? それで許してくれる?


 下着姿の写真も送られてきて、俺の劣情を煽ってきやがった。……くっ!


 悔しいが俺の下半身は正直だった。

 綾乃の写真を見ただけで、下半身がガチガチのゴチゴチのギンギンになってしまった。


 ……く、くそっ!


 こんな裏切者のビッチで興奮するとか、俺は馬鹿か!


 あんな痛い目を見たのに、綾乃の体がえっちすぎてつい反応してしまった。



「ね、ねえ……赤くん、どうしたの? 綾乃ちゃんから連絡?」

「い……いや。これは……その……」


 俺の鉄の意思はどうした!

 なぜ、どうしてこんなにも揺らいでいるんだ。まて、まてよ俺よ。綾乃の言葉を信じるな俺よ。


 やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ……!

 返信をするな。するな。しちゃだめだ……。このまま綾乃の家へ向かい、ご両親に今日あったことを打ち明けるんだろうがっ!


 なに勝手に指を動かしているんだ、俺……!


 なんで返信しようとしているんだ!



 やめろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!



 赤:……綾乃、それ本当か?

 綾乃:うん。わたしと……シたいよね?



 ためらっている。俺はとてもためらっている。これ以上、返信したら俺は俺でなくなる。状況はさらに悪化するだろう。


 でも。


 でも、じゃねえ!!

 また騙されて酷い目に遭うぞ!!


 でも。


 地獄だぞ、そっちは!!

 引き返すのなら、まだ間に合う!!


 けれど。



「赤くん!!」



 ……ハッ。

 藍が俺の名を叫んでいた。

 おかげで意識を戻すことに成功した。危なかった……。



「藍……」

「だめだよ、赤くん。綾乃ちゃんと連絡を取っちゃダメ!」

「あ、ああ……そうだな。恥ずかしながら性欲に負けるところだった……」



 だが、綾乃はトドメを刺すように新たな写真を送ってきた。


 その写真には綾乃のほぼ全裸の姿が……。肝心な部分は腕とかで上手く隠しているが、これは刺激的すぎた。憧れの、憧れだった幼馴染がこんな姿を……。



 くそ、くそがあああああああああああああっ!!!



 こうなったら、こうなったら……こうしてやるッ!!



「ね、ねえ、赤くん?」

「……藍、俺は一度……トイレへ行ってくる」

「あー…うん。待ってるね」


 俺は足早に公園のトイレへ。



(………………ウッ!!!!!!!)

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