第5話 寝取られる前に

 許さないって……なんだよ。

 少し恐怖を覚えたが、担任の説明で俺はホッとした。


「あ~、非常に言い辛いのだが、今日をもって平塚 綾乃は転校することになった」


 その瞬間、教室内が騒然となった。



「はあ!? マジかよ!」「えっ……綾乃さんが転校?」「なんで?」「突然すぎじゃね……?」「なんか事件があったらしいよ」「イジメなんてなかったよな」「昨日までいたのに信じれん……」「ふざけんな!」



 当然の反応だ。

 けど俺は救われた。

 転校が確定的になった以上、なにかされる心配もないはずだ。そう信じたい。



「凄い反応だね、赤くん」

「あ、ああ……。そりゃ、一応はクラスの人気者でもあったからな」


 そう、綾乃は普通にしていれば憧れの対象であった。男なら付き合いたいとかそういう声が。女ならあんな風に可愛くなりたいとか羨望があったようだ。


 だがこうなってしまっては……もう、取り返しがつかない。綾乃は理由不明なまま転校し、存在を忘れらていくのだろう。


 事態は思ったよりも収拾が早く、クラスメイトは渋々ながら納得していた。


 それからは淡々とした授業が進んでいくだけだった。


 けれど、隣の席が藍となった今は楽しいと思えている。時折見せてくれる笑顔が俺の痛んだ心を癒す。



 お昼になった。

 俺は藍を誘って食堂でも行こうかなと思ったが――。あれ、姿がないぞ。いつの間にいなくなっていたんだ……?



「紫藤、古森を探しているのか?」



 キョロキョロと周囲を見渡していると、クラスメイトの男子が話しかけてきた。



「そうなんだ。藍を見ていないか?」

「彼女なら授業が終わる前に教室をこっそり抜け出していたよ」

「マジかよ」

「なんか急いでいたみたいだけどね」

「教えてくれてありがとう」


 ……なんだよ、藍のヤツ。体調でも悪かったのかな。

 結局俺は一人になってしまった。

 お昼ごはんを食堂で済ませ、教室へ戻ると藍の姿があった。


「ごめんね、赤くん」

「どこへ行っていたんだよ?」

「ちょっと用事でさ……」

「用事ってなんだよ」

「どうってことないよ」

「本当かよ」


 なんだか誤魔化すようにして藍は笑っていた。なんだか気になるな。



 ――放課後。



 またも藍の姿が消えていた。……またかよ。


 心配になって俺は学校中を歩き回ったが、見つけられなかった。どこだ……どこにいるんだよ。連絡もつかないし、電話をしても向こうの電源が入っていなくて繋がらない。


 さすがに部活も終わり、いよいよ学校も閉まる時間帯になった。だめだ、そろそろ帰ろう。


 諦めて俺は帰ろうとしたが、ふと生徒指導室が目に入った。……いや、まさか。そんなところにいるわけがないよな。


 念のためと覗いてみると…………え?



『……や、やめて!』

『藍、お前はもう逃げられない。このまま俺と寝ろ』

『嫌! どうして……こんなことを』

『紫藤を守りたいなら、そのいやらしい体を捧げろ。それが条件だ』



 なんだか藍が嫌がっているように聞こえた。相手は……む?



 まさか……平野なのか……!


 窓の隙間から覗くと、平野が藍を押し倒していた。制服を脱がそうとかなり接近していた。野郎……!



『平野くん、どうしてこんな最低なことを!』

『綾乃を転校にした紫藤が許せん。それにな、これは綾乃からの願いでもある。藍を好きにしていいってな! さあ、紫藤を半殺しにされたくなければ……ヤらせろ』


 な、なんだって!!

 綾乃が仕掛けたのかよ。


 つーか、平野……許さん!! 俺の大切な幼馴染をこれ以上奪うんじゃねえ……!!


 我慢の限界に達した俺は、指導室の扉を開けた。



「平野、てめぇ!!」


「「……!?」」



 二人ともこちらに振り向き、特に藍は泣きそうになっていた。


「赤くん! 助けて!」

「ああ、今助けてやる。そのクズ野郎をぶん殴ってからな!」


 暴力は嫌いだ。でも、藍を守る為なら俺は……俺は!!



「ふははは! こりゃいい、紫藤! お前をボコって目の前で幼馴染を犯してやるよォ!! 今度は処女の藍ちゃんをよ!!」


「平野、お前をぶっ飛ばす!!」



 怒りのまま俺は突撃した。拳を強く握り、全力で平野の顔面に目掛け――!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る