第12話 寝取られ悪夢

 帰宅を果たし、俺は自室へ向かう。

 さっきの都のことを、ぼうっと考えているとスマホが震えた。なんだろうと画面を覗くと藍からメッセージが入っていた。



 藍:明日もお弁当作るね!



 嬉しい反面、学校でのことが脳裏に過ぎる。

 木ノ原とは本当になにもなかったんだよな……。本当に花瓶のことで頼まれただけなんだよな……?

 信じていいんだよな。


 綾乃のことがフラッシュバックして俺は胸が苦しくなった。

 またあんなことになったら俺は、もう立ち直る自信がないぞ。


 いやだが、藍は綾乃とは違う。

 性格の良さは理解している。

 昔から誰にでも優しくて、コミュニケーションのオバケだと知っていた。だから、きっと頼まれただけ。それだけなんだ。


 自身に言い聞かせるようにし、ベッドに身を預けると、俺はいつの間にか眠ってしまっていた……。




 ◆◆◆



『……先生っ』



 扉の隙間から藍と木ノ原の交わる姿が見えた。

 制服が酷く乱れ、藍はこうこつとした表情で股を開いていた。


 え……なんだこれは。

 あれは勘違い・・・のはずだろう!


 なのになんで……!

 これはなんだ、どうして藍が押し倒されているんだよ……!?



「うあああああああああああああああああああ!!」



 目を覚まし、俺は過呼吸に襲われた。

 全身が汗まみれで、震えが酷い。

 吐き気とまいもして動悸が激しくなった。



 クソッ……“悪夢”かよ。



 夢で良かった。

 いや、よくはないな。よりによって、あのシーンを夢で見てしまうなんて。


 やっぱり俺は藍が気になって仕方がない。

 このモヤモヤを晴らしたい。



 いやしかし、それよりも夢精などという、まさかの大惨事に気づいた俺。家族にバレないよう、シャワーを浴びた……。



 時刻は朝六時半。

 当校まであと少し。制服に着替えて朝食をとり、仕度を済ませて玄関を出ると……藍が出迎えてくれた。その顔を見れて俺は酷く安堵した。……ああ、良かった。

 ひょっとすると、もう俺なんかどうでもよくなっていたのかと勘繰ってしまっていた。


「おはよう、赤くん」


 さわやかな笑みを向け、小走りで俺の目の前に寄ってくる藍。それがとても嬉しくて、泣きそうになった。

 聞くなら今しかない。


「藍……大切な話があるんだ」

「話? いいけど、な~に?」


 藍は首をわずかに傾げ、視線を合わせてくる。……そんな純粋な瞳を向けられると、昨日のことを切り出し辛い。

 けれど、それでも……俺は真実を知りたい。


「昨日のことなんだが」

「昨日のこと~?」

「そうだ。放課後、木ノ原と会っていたろ」

「うん、まあね」

「……本当に花瓶だけなのか」

「どういう意味?」

「いや……だからさ、木ノ原に脅されたとか……ないよな?」


 俺は少し遠回しに聞いてみた。だけど、これが最適解のはず。


「あはは。そんなことないよ。木ノ原先生は筋肉ムキムキでちょっと怖いけど、優しいよ~」

「本当にそれだけ?」

「特になにもないよ。……あ、もしかして赤くんってば、あたしと木ノ原先生の関係を疑ってる? ありえないありえない。先生とあたしには何もないよ」


 お腹を抱えて笑う藍。その様子からして本当に藍と木ノ原には何もなさそうだった。……だよな。俺の杞憂だったわけか。


 ああ~~~~…良かった。


 しかし、俺はここで話を終えるような男ではない。もう一歩踏み込む……!


「……藍、なら俺のことは……どうなんだ」

「え? 赤くんのこと?」

「そうだ。俺とはただの幼馴染なのか……?」


「大切な幼馴染だよ」

「…………そ、そうだよな」


 でもどうせなら、もう一声欲しかった。

 けれど、それでも嬉しい。……藍がそう思ってくれているだけでも、ありがたいことだ。だが俺はその先を望んでもいた。

 いっそ、ここで告って砕け散るのもアリなのかな……。いや、それは怖い。地獄だ。この先、俺と藍の関係は変わらず、下手すりゃ……知らん男に。考えただけで世界の終わりだ。


「幼馴染だけど、それ以上だよ」

「え……」

「なんてね」


 藍のヤツ、今小声でなにか……言ったような。

 赤面して背を向ける藍は先へ行ってしまった……。


 え。


 え?


 なにを言ったのー!?



 ひとり立ち尽くしていると、都がやってきた。


「おはようございます、兄さん」

「お、おはよ。都」

「ぼうっとしてどうしたのですか?」

「いや、なんでもないよ。それより……一緒に学校へ行くか?」

「はいっ、喜んで」


 大胆に俺の腕に抱きついてくる都。こうして触れ合うのはごく自然のこと。子供の頃から普通であたりまえ。だから、俺は都に対して緊張だとか恋愛感情が薄かった。どちらかと言えば『妹』みたいな存在だ。


「そういえば、藍がさ――」

「……ええ、兄さん。藍ちゃんは大切な幼馴染ですよ。ですから……兄さんを取られる前に……抹殺するしかないんです」


「ちょ、都。なにを言っているんだ」

「いえ、なんでもないんです! フフフ……」


 なんだか昔と性格が変わったな。

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