第11話 逆NTR

 そんな、そんな、そんな……。

 藍があの木ノ原と……? 信じられない。これは現実リアルなのか? 悪い夢なら直ぐに覚めてくれ……!


 だが、俺の体は正直だった。


 意思に反して下半身が激しく膨張し、今にも暴発寸前だった。

 ギチギチとミシミシと音を立てる勢い。


 ……なぜだ。

 なぜなんだ。


 俺は悔しくて、悲しくて、今にも死にたいのに――なのに、酷く興奮してしまっていた。


 気づけば俺は必死に自分を慰めていた。



(…………ヴ、ヴヴヴッ!!!!!)



 これが俺にできる精一杯…………。



 急いで片付けようとすると、背後から声を掛けられた。



「……え。そこにいるの……兄さん?」

「え?」


 振り向くと、そこには驚いた表情カオの都がいた。俺の下半身を凝視し、口を魚みたいにパクパクさせていた。

 やがて頬を真っ赤に染めて涙目に。



「兄さん……な、な、なにを!!」

「ナニって、そりゃナニを……ぁく…………ヴッ!」


 思わず興奮してまたイッてしまう俺。

 やばい、これ以上は……俺の人生が終わる。

 その前になんとかして危機を脱しないと。


「……兄さん。嘘ですよね……」

「違うんだ! 藍と木ノ原のせいで……」

「えっ、まさかこの生徒指導室の中に……」


 この隙に俺は証拠を隠滅した。……ふぅ、危なかった。

 手遅れだった気がしないでもないが、そのタイミングで生徒指導室の扉が開いた。

 中から藍と木ノ原が現れた。



「赤くん!? どうしてここに」

「なにをしている紫藤」



 二人とも不思議そうに俺を見る。


 藍、お前は……木ノ原としちまったんだよな。ちゃんとこの目で見たわけではないが、あの声は間違いなく行為中のものだった。……多分、だけど。



「藍こそ、先生と二人きりでなにをしていた……?」

「なにって、生徒指導室の花瓶を取り換えていたんだけど」

「は? 花瓶?」

「うん、木ノ原先生に頼まれちゃってさ。でね、さっき手を滑らせて水を零しちゃったの。ほら、制服が濡れちゃって」


 よく見るとスカートが水で濡れていた。……あ! そういうことか。木ノ原のあの発言はそういう意味だったんだ。


 俺は勘違いしていた!?


 ……マジカヨ。


 頭を抱えていると木ノ原がギロッと睨んできた。


「紫藤、お前こそなにをしていた」

「えっ! べ、別に……ナニもしていませんよォ!?」

「なぜ声がそんなにうわずっているんだ」


 生徒指導室の前で果てたとか口が裂けても言えるわけがない! というか、都が目撃しているから……告げ口されたらアウトだ。


 震えていると都が静かに口を開いた。


「あの、木ノ原先生」

「なんだ君」

「兄さん……紫藤先輩は私と歩いていたんです。たまたまこの生徒指導室の前で立ち止まり、雑談していただけなので、うるさくしてしまったのなら謝ります」


「いや、理由があるのなら分かった。もういい、みんな帰れ」


 ……危なかった。

 都が俺をかばってくれていなかったら、いろいろ終わっていた。下手すりゃ退学だっただろう。助かった。本当に助かった。


 安堵しつつも、下校した。


 学校を出て早々、藍が俺の右手を握った。……こ、これはいろんな意味で嬉しい誤算。


「赤くん、心配させちゃってごめんね」

「……へ」

「黙って木ノ原先生の手伝いしたから……怒っているんだよね?」

「そ、そんなことはない」

「そうなの? なんか様子がおかしいからさ」


 そりゃそうだ。俺はてっきり、藍と木ノ原がそういう関係なのかと思ったからな。でも、それは勘違いだった。

 嬉しい反面、俺は生徒指導室の前でやってしまったことを悔いていた。なんて愚かなことをしてしまったんだ……。

 しかも、都に見られているんだよなぁ。


 未だに都は、俺のことを喋らない。

 黙っていてくれるのか……?


「藍ちゃん。兄さんは普通です」


 やっぱり都はかばってくれた。


「そうなんだ……」

「そうです。なのでご心配なさらず」


 サムズアップを俺に向ける都。あなたは天使か!

 おかげで俺の愚行が暴かれることはなかった。


 しばらくして自宅前に到着。藍は自分の家に、都は立ち止まっていた。


「都……」

「あの、兄さん。学校でのことですが」

「……! すまない。妙なものを見せてしまったよな」

「なんのことですか? それより、私を裏切らないことです。いいですね、兄さん……」

「そんなことしないよ。神に誓うよ。俺は無神論者だけど」


 都はじっと俺を見つめ、氷のように微笑む。


「まあいいです。たとえ兄さんと藍ちゃんが付き合おうとも関係ありません。その時は兄さんを寝取りますから」


 そ、それっていわゆる逆NTR……ってコト!?

 まさかの宣言に俺は雷に打たれた気分になった。都のヤツ、そこまで本気マジなのか。


 しかし今回のことで助かったのも事実。


 今は様子を見るしかなさそうだ。

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