第19話 あぶない“声”

 藍と共に学校へ向かい、何事もなく教室に辿り着いた。


「ねえ、赤くん」

「なんだい、藍」

「今朝は、都となにを話していたの?」


 やっぱり気になるよな。

 しかし、事実をありのままに話すといろいろマズイ気がしていた。

 あの写真のこととかな。

 けど、藍にも間違って送っているみたいだし……無関係とは言えないけど。でも、それでも俺は胸に閉まっておくことにした。


「いや、たいしたことではないよ」

「そっか~。いいけどさ」


 藍はそれ以上は追及してこなかった。

 いつもの隅の席へ座り、俺は授業の準備を進めた。


 そうして念仏のような授業が続き――昼休みを迎えた。


 隣の席に体を向けると藍は「はい、お弁当」と差し出してきた。……ありがてぇ。


 もちろん、俺は受け取った。


 だが、ここで食べるには男子共の羨望の眼差しが邪魔すぎる。おい、コラ! こっち見てるんじゃねぇよ。


 仕方なく教室を飛び出し、そのまま屋上へ。


「いつもすまないな」

「ううん、いいの。最近助けてもらってばかりだし」

「そうかな」

「そうだよ」


 いつしか自然に手を繋ぎ、俺たちは屋上へ。

 だが、そこで異変を感じた。


「ま、まて……藍」

「え?」


 屋上の前の扉で俺は足を止めた。

 なにか……聞こえる。



『…………っ』



 な、なんだ?

 声が聞こえるような。

 この声はまさか都……なのか?


 扉を開けようとした瞬間――都が飛び出てきて、そのまま階段を降りていった。い、いったい何なんだ?


 屋上へ入ると、特に異変はなかった。


「今の都だったよな」

「うん、都だったと思う。ひとりでなにをしていたんだろう?」


 首をひねる藍。俺も同じように頭上にハテナが浮かんだ。

 気にせず柵に背を向けてそのまま昼食とした。


「おぉ~、今日も藍の弁当は豪華だな」

「そんなことないよ~」


 シャケ、昆布、赤飯のおにぎりが三つ。それに美味そうなシューマイやだし巻き卵などのおかずが多数詰められていた。

 俺はまず、おにぎり(シャケ)をいただいた。


 …………うまっ!


 絶妙な塩梅で驚いた。俺の好きな味付けじゃないか!


「まるで計算されたみたいに美味い!!」

「そんな褒められ方したの初めてだよ。嬉しいなっ」


 照れる藍の姿はビビるほどに可愛い。


「いや、マジで」

「朝早起きして、がんばった甲斐かいがあったよ~。あ、そうだ、赤くん。はい、あ~ん」


 だし巻き卵を摘まみ、俺の口元へ運んできてくれる藍。まさかの“あ~ん”かよ! もちろん、断る理由などない。


「あーん」


 ぱくっと口へ含むと――。



 うまあああああああああああああああああああああああ!!!



 頬がトロけそうになるほど美味い。頬っぺたが落ちるとはまさにこのこと。幸せ過ぎて涙が出た。



「ど、どうしたの!?」

「めちゃくちゃうめぇ……」

「そんなに褒められると、もっと“あ~ん”したくなっちゃう」


 そういつつも藍は“あ~ん”してくれた。

 なんだこの幸せバカップル。

 いやでもいい。

 今まで辛いことが多すぎた。

 だから、これからはこうして二人きりの時間を増やしていく。



 だが。



 どこかでボソッと声が聞こえた――気がした。




『…………兄さん……許しませんよ』



 ……?

 なんだ、気のせいかな。


 都の声が聞こえたような。

 いや、幻聴だ。

 きっとそうに違いない。

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