第34話 続く平和と放課後の幸福

 この中に藍がいるのか?


 扉の隙間から見えたのは…………え。



 生徒会長の男と女子の方は……藍っぽいぞ。本人のように見えるけど、でも……あれ。

 なんだか違うように思えてきた。

 心臓がバクバクしているせいか、妙な緊張でそう見えるだけだ。



 つーか――誰だよ!



 確かに、藍にちょっと似ていた。でもまったくの他人だ。なるほど、大林さんの見間違えだな。


 ……はぁ、ビックリした。


 本当に藍かと思ったよ。

 あの女子は藍ではない、安心した!


 それにしても、こんな場所でお楽しみ中とは……へぇ、凄い。もう少し眺めていたい気もするけど、藍でないと分かった以上はもうどうでもいい。抜く価値もねぇ!


 生徒会室を後にして、俺は歩き続けた。


 少し歩くと前方から見知った顔が現れた。



「ようやく会えましたね、兄さん」

「都じゃないか! 連絡も返さずどうした?」

「私、スマホのバッテリー残量がゼロなんです。朝から1%しかなかったんですよ」


 ギリギリすぎるっていうか、充電忘れていたのか……。


「そういうことだったのか。心配したぞ」

「ごめんなさい。でも兄さんのことはずっと見ていましたから」

「へ?」

「これからは、私のターンです」


 俺の腕に絡みついてくる都。


「……ま、まて。俺は藍を探しているんだ」

「藍ちゃんは来ませんよ」

「なぜだ」

「それはですね、これからは私が兄さんを独占するからです」


 つまり、藍の居場所は知らないと。

 そう言いたいらしい。


「すまんが、藍と約束があってな」

「じゃあ、私も一緒に。いいでしょう?」

「いいけど、仲良くだぞ」

「はい。約束します」


 それならいいんだがな。

 さて、都をくっつけたまま藍を探さなきゃだ。どこへ行ってしまったんだ?


 とうとうグラウンドまで出てしまった。


 こんなところにいるわけ――。



「おーい、赤くーん! ごめんー!」



 いたあああああああああ!?


 プールの方から走ってくる藍の姿があった。そんなところにいたのかよ。



「なんでプールの方に? 水泳部は辞めたんだろ?」

「うん。この前、退部届出しそびれちゃったから」

「そういうことかよ! だからいなくなっていたんだ」

「言わなくてごめんね。直ぐ済ませたかったから」


 俺の目の前に駆けつけてきて、藍は息を切らしながらもそう説明してくれた。……良かった。やっぱり生徒会室の女子は別人だ。


「さあ、約束通り行こうか」

「うん。ていうか、都……」


 今になって藍は都の存在に気づき、じとっとした目で見ていた。少し警戒している。


「藍ちゃん、私も一緒に」

「……仕方ないなぁ。うん、分かった」


 渋々ながらもオーケーする藍。なんだかんだありながらも幼馴染だ。


 そのまま学校を出て下校――ではなく、寄り道をしていく。


 どこへ行こうかと候補をいくつか絞る。


 ゲーセン、カラオケ、カフェ、ショッピング、散歩、バッティングセンター、ダーツ、卓球……家でゲームなどなど。



「どれがいい?」


「「ゲーセン!」」



 藍も都もゲームセンターをご所望だ。

 そういえばクレーンゲームが好きなんだよな~。


 さっそく歩いて向かう。

 徒歩十五分の場所に大きなゲームセンターがある。専門店であり、この辺りでは巨大施設だ。


 扉を開け、中へ入ると和風テイストの異空間がある。毎回思うけどなぜ、こんな作りになっているんだ?

 少し歩き、更に扉を開けると大きな大仏が俺たちを迎えた。


 ここのゲーセン、なぜか大きな大仏が設置されているんだよな。奈良の大仏に匹敵するサイズ感だぞ。


 そして、広い空間にはクレーンゲームの筐体が百台ほど。それとメダルゲームや他のゲーム筐体の数々。凄まじい設置数だ。


 スタッフから手首につけるタグを受け取った。


 これは後で精算する為に必要なタグ。このゲームセンターはすべてこのタグで料金が管理されているのだ。ちょっと便利な仕組み。けど使い過ぎに注意だな。



「相変わらず、ここ凄いね!」

「そうだね、藍ちゃん!」


 藍と都ははしゃいでいた。

 こうしてみれば普通の女子高生の仲なのだが。


 ぼうっとしていると二人が俺の手を引っ張ってきた。



「さっそくプレイしよっ!」

「そうですよ、兄さん。ぼうっとしていないで行きましょ」



 ここまで来たからにはクレーンゲームでカッコイイところを見せてやらないとな。これでも俺はこの手のゲームが得意なのだ。


 ぬいぐるみやフィギュアなど取りまくってやる――!

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