第7話 お礼のキス
……どうなった?
俺はどこにいる?
目の前は真っ暗で闇に包まれていた。……暗い。とても暗い。手足を動かそうとしても、なぜか身動きができなかった。
だめだ。まだしびれが残っている。
なにもできない俺は闇に身を委ね、再び眠りに。
『――――――』
しばらくして頬に熱を感じた。
「……ん」
まぶたを開けると、窓から陽射しが差し込んでいた。……朝か。
知らない天井。知らない部屋。白いカーテンとベッド。
おそらく病院だろうか。
ようやく身を起せた俺は、自身の体を確認した。包帯がグルグル巻かれているところ、なかなかのケガだったらしい。
スマホは……あった。
時刻は朝の六時半。
昨日は藍を探して……それで生徒指導室で平野を見つけて……。そこでスタンガン攻撃に遭い、死にそうになったんだった。
あれからどうなった?
藍はどこに――。
…………あ。
「おはよ、赤くん」
ちょうど病室の扉が開き、藍が入ってきた。……良かった、無事だったんだ。
「藍! ケガはないか!?」
「それはこっちのセリフ。赤くんのおかげで、あたしは大丈夫」
「そ、そうか……良かった。平野はどうなった?」
「詳しく話すよ」
藍は俺の横に座り、手を握ってきた。微かに震えている。
「教えてくれ。あの後のことを」
「あたしもね、気絶しちゃったからあんまり覚えていないんだけど……少し経ってから目を覚まして事情聴取を受けたの」
「なるほど、そうだったのか」
「でね、平野くんは傷害容疑で逮捕されたよ」
それを耳にして俺はホッとした。そうか、緊急通報機能が上手く動作してくれたんだ。
「警察が駆けつけてくれたんだな」
「うん、大騒ぎだったみたい。パトカーが十台以上は来たみたいだよ」
そんなに大事になってしまったか。
「でね、不同意性交等致傷罪も適用されるかもって」
「ああ、今はそんな名称なんだっけ」
ちょっと前は強姦罪だとか強制性交罪という名称だったはず。今はちょっと違うらしい。
どのみち平野は終わりってことだな。
罪を重ね過ぎた。こうなったら、そう簡単にはシャバに出てこれないだろう。
ようやく安心でき、俺は胸を撫でおろせた。
安堵していると藍が頭を下げていた。
「助けてくれてありがとう、赤くん」
「いや、当然のことをしただけだ」
「ううん、嬉しかった。あたし、本当に襲われるって思ったし……すごく怖かった。もう少しで裸にされてたかもしれないし、酷いことされてたかも」
フラッシュバックしたのか、藍は震えて怯えていた。
平野の野郎、藍にこんな心の傷を負わせやがって。なにがなんでも罪を償ってもらうぞ。
「安心しろ。これからも俺が守ってやるから」
「嬉しい。赤くんのこと一番に信じてる」
俺の胸に顔を埋めてくる藍。突然のことでドキドキした。
藍の頭ってこんなに小さかったのか。
しばらくはこうしていよう。
あれから少し時間が経過すると、警察がやってきて話を聞かれた。俺は藍とは幼馴染であること、彼女を守るために正当防衛したことをハッキリと明確に示した。
すると俺が罪に問われることはないと言われた。良かった。一応、平野のスタンガンを奪って反撃していたからな。
「……藍」
「赤くん、あのね……」
「ん?」
「……そ、その。助けてくれたお礼……したい」
「あ~、別にお礼とかいいけどな」
「ううん、命の恩人だもん。だからね、キ……キスとかしてもいいよ」
「――なッ!?」
「はい、どうぞ……」
藍はゆっくりと顔を上げ、唇を突き出してきた。すでに準備万端らしい。けど、俺は心の準備がまったくできていなかった。不意打ちすぎるって……!
そ、そりゃあ……藍のことは好きだ。
幼馴染だから余計に好きだ。
……ああ、そうか。そうだな、気持ちに素直になろう。
爆発しそうなほどの心臓の鼓動。
沸騰した熱が体中を巡る。
「藍……」
「うん」
俺は藍をキスを…………。
『そのキス、ちょっと待ったあああああああああああああああ!!!!』
「「――え!?」」
突然の叫び声に俺も藍も戸惑った。
な、なんだこの声量。
ていうか病室内では静かにしなさい!
いや、けど……あの出入口で突っ立っている人はまさか!
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