第32話 花が散り眠る国
世界樹がある国は……まるで時間が止まってしまったかのようだ。オレはラウラを抱えて歩く。静かだった。
生きる物、動く物、すべてが時間を止められたかのように動かない。
「なんだこれは?世界樹の花の力か?」
甘い花の香りが鼻につく。石畳に無数の白い花が落ちている。
うつ伏せになって寝ている者、腕枕をして寝ている者、寄り添うように寝ている者……なにかの呪いのようだ。
なぜオレだけ起きていて動けるのだろう?
ラウラも目を閉じて起きない。涙の跡が残ったまま眠っている。それが愛おしく感じる。
「誰か!いないのか!?」
叫ぶ。返答はない。ゾッとする。
「あの大神官長すら……か?」
ふと思った。これで自分は自由だと。大神官長さえ目が覚めなければ術が発動することなんて無い。
「オレは自由なのか……」
今、逃げ出してしまえばいい。そうすれば自由だ。もう神殿に囚われなくて済む。この檻から飛び出し、好きなことをしようか。
―――ラウラと引き換えに?
皆が目覚めないということはラウラも目覚めないということだ。
「なんでオレ、ラウラを好きになっちゃったんだろうなぁ?」
そう小さく呟き、抱きかかえている彼女の顔を見る。あのラウラの涙によって起きた現象だろう。凄まじい力だと思う。もしかして世界樹を操る力を彼女は持っている?
眠っているほうが幸せなのかもしれないとも思う。起きて聖女となり、万が一世界樹が枯れたら非難に晒され、罵られ、民の気持ちを鎮めるためには、世界樹の聖女たる彼女の血を流すしかなくなるだろう。
夜の闇に浮かぶ白い花の中にオレは佇んだ。
じっと一人で、起きない彼女を見る。もしかしてこれが彼女の願いだったのかもしれない。
このまま眠る国のままでいることが良いことで幸せだろうと甘い花の香りに包まれると、頭が酔ったようになり、そう思いかける。だが、慌てて首を横に振る。
だけどオレはどちらを選ぶ?自分の自由か彼女の目覚めか?
もう答えは決まってる。
オレは自由よりも、もう一度、ラウラの明るく笑う顔が見たいんだ。
世界樹の花が降る下でオレは見上げる。夜空にヒラヒラと散ってゆく美しい無数の白い花びらを見た。
地位とお金が大好きなハズレ聖女×有能な怠け者ハズレ召喚士は世界樹を復活させる! カエデネコ @nekokaede
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