第16話 ラウラの過去
痛いと叫ぶ子どもの声がした。不衛生で栄養もまともにとれないこの孤児たちが集まるスラムの一角では病気やケガか絶えない。
「ラウラ、ちょっと診てくれない?」
「あんたのその力は役に立つ」
そう呼ばれて、癒しの力を使った。それが貴重な力であることも知らず、感謝されること、必要とされることが、ただ純粋に嬉しくて、その区域の人達を癒していた。
しかし孤児の中でもボス格の男の子が私に忠告するように言った。
「おまえ、止めとけよ。神殿に連れて行かれるぞ。力が強い子どもは連れて行かれて神官にさせられる」
私はスラム街からでも見える大木の傍にある巨大な神殿を見た。自分とは縁のない場所に見えたので、首を傾げた。
「いつもありがとうね。これちょっとだけど」
そう言って、感謝の気持ちを込めて、小さなパン、肉や魚を一切れ、時には甘い腐りかけの果物までくれた。
「ありがとう」
私は嬉しくてお礼を言う。小さなツギハギだらけの小屋に何人かの子どもたちといたので、それを分けたり、時には独り占めしたりした。
なんて便利な力だろうと、ただ、なんにも考えずに使っていた。
ある日、目の前で1人の少年が倒れた。スラムのある区域に入って来たけれど、普段見かけない子だった。たまたま私はそこに居合わせた。胸や頭を抑えていて痛みを堪え呼吸が苦しそうで、うずくまっている。足は激痛らしく手で震えながらそっと触れてみている。
「だいじょうぶ?」
問いかけても返事をしない。ただ辛そうだった。
治してあげたいと、いつものように私は癒やしの力を使った。顔をあげた少年と目が合う。ひどく青白い顔色で、震えている。お互いに何か言葉を発しようと、口を開こうとした時だった。
「おい!この小汚い娘!癒やしの力を使えるぞ!」
「ここにいたぞ!捕まえろ」
「手を焼かせるのもいい加減にしろ!」
少年が後ろから羽交い締めされ、バタバタ暴れた。神官たちが集まってきた。少年は静かにしろ!と言われて、殴られ、気を失い、ダラリとなった。
私も腕を掴まれた。目の前で、行われた暴力的な光景に私は怖くなる。その少年は目を開けない。怖いところへ連れて行かれる!
「や、やだ!はなして!」
私は振りほどこうとしたが、大人の力には敵わない。
「こんな所にいるよりも、神殿で暮らしたほうがいい暮らしができる」
「食事も服も与えてもらえる」
「同じような年齢の子もいるから、すぐ友達もできるよ」
そう優しく囁かれる。私、ここにいたいの!叫んだ言葉はそんなわけないと、嘲笑で返される。私がここからいなくなったらどうなるの?みんなはどうやって傷や病気を治すの?私の問いに一人が言った。
「その力は価値ある人間のために使うんだ」
ここにいる私達は価値がないの?価値がないと生きてる事を許されないの?
先程の少年は目を開けない。
そして神官の一人がスラム区域に火を放つのを見た。顔は笑っていた。みんな!逃げて!私はそう叫んだと思う。
ふざけ半分に、汚い場所は浄化してやる!と言って行ったことが大きな火となり、燃えていく。私は言葉にならない言葉を叫んでいて、いつしか意識を失った。
私に感謝してくれた人も服や食べ物をわけて過ごしていた仲間もみんな……それから会ったことはなかった。
価値が無ければ……必要とされなければこうして……私もいつか……。
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