第15話 嘘をついている者は誰か?

 神殿に着くと、エレナはすぐに大神官長様へ報告した。


 私とセスがミリーとマテオを傷つけたという虚偽の報告をしているエレナに私は否定の言葉を言い続ける。


「私達、してません!」


「ラウラ、いくら聖女になりたいからって……あんまりだわ」


 シクシク泣き出すエレナ。涙でまつ毛を濡らす美しい姿は慈愛に満ちていて、聞いている周囲の神官たちがざわめき出す。


 大神官長様も眉をひそめて私とセスを見ている。


「セス、おまえは何か言うことがないのか?」


「信じるなら喋るが、信じないなら言っても時間の無駄だ」


 ……ちょっと!反抗的な態度はこっちの分が悪くなるでしょっ!私はもうっ!とセスを睨もうとした時だった。


「二人を懲罰室へ」


 冷たい声が神殿の中に響く。え!?私は両腕を掴まれる。


「そ、そんな!?待って!ミリーやマテオが目覚めれば証言できるわ!私達、本当に何も……」


「懲罰室はオレだけ入る。傷つけることができる力があるのはオレだけだ。ラウラに攻撃的な力は無い」


 セスが冷静にそう言うが……私はそれはダメよ!と焦る。


「セス!なに、かっこつけてんのよっ!私達、してないって言いなさいよーっ!」


「二人共と言ったはずだ」


 動じない大神官長様。私とセスは両腕を神官たちに゙掴まれて連れて行かれた。


「エレナっ!あなたって本当に……どこまで黒いのよっ!」


 私は最後まで足掻く。こんなのってないでしょ!?悔しすぎるわよ!


「大人しくしろ!」


 怒られた……。


「大人しくできないなら、神殿の法に則って、従わせるまでだぞ!」


 私はピタリと大人しくなった。その言葉を聞いて、大神官長様の顔を見ると笑ってはおらず、真剣にこっちを見ていた。


 ……本気だ。


 怖くなって、私は連れて行かれるほうがマシだと思うことにした。


 早く……ミリーとマテオが目覚めて違うと否定してくれるといいんだけど。セスは始終、どこかあきらめたように大人しく、目を閉じている。寝ているようにも見える。


 私とセスは別々の懲罰室へと入れられる。道が分かれる時にセスが目を開けて、私に言った。


「大人しくしてろよ。落ち着けよ」

 

「私はもともと冷静よっ!」


 そうは見えねーよと少しだけ笑って、行ってしまった。


 入れと感情のない声で言われて入る部屋は初めてではなかった。狭い部屋は見渡す限り真っ白な色で塗られている。清潔感はあるけれど、ある意味、発狂しそうなほど怖い部屋だ。


 今回はまさか……そんなことはないと信じたい。聖女候補に乱暴なことはしないはずだと。


 幼い頃、何度も何度も神殿から逃げ出そうとした。私はその記憶を思い出して、ズキッと痛む額を抑える。痛みは気のせいだと思うが、痛い。


 思わずうずくまってしまう。一人でこの部屋は嫌だ。こんな部屋に入らなくて済むように確固たる聖女の地位を得たい。私は聖女になることを諦めないわよ。


 自分の人生を誰かに軽く左右されないくらい強い立場が欲しい。


 何もない白い壁をただ睨みつけた。

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