第14話 試練その2「地底調査」

 世界樹の土に問題がないか見てきてほしい。そう言われたが、単なる土質の話ではない。世界樹の根っこは地下の奥深くまで伸びていて空洞になっている。そこにもう一つ祠があり、御神体が存在し、それを見てくることが今回の目的になる。


「へー、道、広いし、きれいになってんだなぁ」


 セスが呑気な声でそう言った。


「来たことないの!?ここも神官になるための巡礼の場所なのに!?セス……それなのに正規の神官なの?召喚士は巡礼を免除されるの?」


「むしろなんで来なきゃ行けないんだよ?ここに来る必要性ってなんだ?」


 ………さあ?私もよく知らないです。だって、神官になるための巡礼って言われたら行くしかないわよね。


 思わず無言になった。時々木の根っこに頭をぶつけないように歩く。


「特に何かあるって感じはないわよね」


「オレ達が調べるまでもないだろう。そもそも世界樹に異変が起きた時点で神官たちが調査してるはずだ。それをわざわざ聖女候補たちに再び調べてこいと言うのはおかしくないか?」


「あら。セス、今日は起きてるの?頭が回ってるじゃないのー」


「……違和感にラウラも気づいていたんだな?」


 もちろんよと私は笑う。


「なぜですか?なんて聞いてもどうせ隠蔽体質の神殿が答えるわけないわ。給料もらってるから行ってるだけ」


「そこ、お金で納得してんのかよ」


「タダ働きしたくないわ。後、残業も嫌だから、急ぐわよ!定時で上がるのよっ!」


 私はのんびり歩くセスを急かす。ヘイヘイとめんどくさそうについてくる。


 祠が近づいてくる。ふと、ザワリとした緊迫した空気を感じる。土の湿った匂いの中に血の匂いが混ざっているような?


 そう私が感じた瞬間、セスが口の中で小さく詠唱し、召喚術を使った。


「モジャコ!」


 1つ目の白い毛玉が現れた。なんか名前で緊張感が薄れるわね……。


「キャアアア!助けてですぅ!!」


 この叫び声はミリー!?祠の前に2つの影が!な、なにこれ!?マテオが張り付けのように根っこに絡め取られており、頭からは血が出ている。ミリーも祠の上の方へやられていて、姿が見えない。声だけがする。


「なんだこれは!?」


 セスは声を上げた。うねる根っこが攻撃してくる。ビュンと音がして、足を絡め取られ、軽々と私の身体が持ち上げられた。


「ラウラ!」 


 私の身体がヒョイッと持ち上がった。悲鳴をあげるより早く、セスが動いた。いつも眠そうでボーッとしている彼からは想像つかない速さだった。襲いかかる根っこを軽く避けて叫ぶ。


「モジャコ!やれ!」


 バリバリとした音と共にモジャコから閃光が放たれた。根っこのみをターゲットに正確に撃っていく。


 小さな毛玉から放たれたとは思えない威力。痺れたように根っこは動かなくなる。


 私は解き放たれて地面に落ちかけたところをセスがキャッチしてくれる。


「意外な戦闘力にびっくりなんだけど?」


 素早く助けてくれたことに驚きを隠せない。


「フフン。これから天才召喚士と呼んでも良いぞ」


「ハズレ召喚士から随分と出世させるわね」


「それはおまえが勝手に言っただけだろ!?」


 ううっ……とうめき声が聞こえる。ハッ!と我にかえる私とセス。


「こんなこと言ってる場合じゃないわね。モジャコ、ありがとうね!」


 白い毛玉を私が撫でると、セスがやや不満気になる。


「オレも労えよ」


 ミリーとマテオはきっと御神体に触れたのだ。私は祠の扉が開き、中身がないことに気づく。近くに紫色をした光が見えた。球体が放っている光だった。


「あれね!」


 私は拾って元の場所に納める。根っこがギギギと重たそうに動き、マテオとミリーを解放した。上から二人が落ちてきたのをモジャコが何かの術を使ったのか、フワリと体を浮かせて助けた。


 ミリーは気を失い、マテオは血を流している。


 私が大丈夫?と声をかけようとした時だった。


「なにしてますの!?ひどい!!マテオとミリーに!!」


「これは違うわ……私たちが来たときにはもう……」


 エレナとレオナルド様だった。二人は私とセスを見て眉をひそめている。誤解している!


「信用できるわけがないですわ!神殿に報告しますわ!」


「セス……まさか……召喚術で傷つけたんじゃないだろうな?」


 マテオの血が流れている。私は癒しの力を使って治すが、エレナは信じなかった。


 ……嫌な予感がする。私とセスは顔を見合わせた。

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