第2話 ハズレ聖女候補とハズレ召喚士
そもそもセスとの出会いからして最悪だった。
この世界の中心には『世界樹』と呼ばれる大木が一本ある。都の中心部に生えるその木を中心に街が広がり、白い城と巨大な神殿は木を守るように建っている。
『世界樹』が枯れる時は世界が滅ぶ時。そう伝えられている。それゆえ永きに渡って『世界樹』を神殿は守り続けていた。
しかし神聖なる世界樹はある日を境に葉が黄色くなり、枯れ始める前兆が見られるようになった。慌てた王家と神殿は復活させるために癒しの力を持つ者を『聖女』と呼び、集めたというわけだ。
私も聖女候補として連れてこられ、ラウラと呼ばれ、一歩前へ出る。私の他にまだ幼い女の子で愛らしいミリー、いかにもこれぞ聖女という清らかな雰囲気のエレナが呼ばれる。私たち3人は顔見知りで、普段は人々の傷や病気を治す神殿の神官として働いている。
「世界樹が枯れ始めていることは最重要機密である。このことを漏らすな。いいな?……ラウラ?」
なんで、私だけ名指しですかね?厳かな雰囲気で、高齢な大神官長がギロリと目で圧をかけてくる。
「なぜラウラが選ばれたのかわからない」
大神官長様、心の声、ただ漏れですけど?
「私だけ、なぜ不満げなんです?」
私は半眼になる。大神官長様がため息を吐いて目を逸らした。
「しかたない。力が強いから……ラウラも候補にしたのじゃ。……しかたない」
「だからなんで私だけ、しぶしぶなわけ!?2回もしかたないって言ったわね?」
「問題児のおぬしを使うとは思わなかったんじゃ!みなまで言わせるなっ!」
もうおやめになってと、私の白の神官服の袖をエレナがひっぱる。エレナを見て、大神官長様はにっこりと笑う。態度違う。
「聖女候補には聖女の守護者をつけ、護衛させる。大事な身であるからな」
そう大神官長様が言うと、3人の男性が入ってきた。そのうち2人はみたことがあった。
「騎士団の副団長を務めているレオナルド、神殿の警備隊長を務めているマテオ、神官でもある召喚士のセスだ」
レオナルド様と言えば、女性神官の間で大人気の美形の騎士様じゃないの!その笑顔を見ると一日幸せに過ごせるとまで言われている。マテオは親しみやすくて、熊のように大きいが優しくて良い人だと評判だ。
セスという人は聞いたことも見たこともなかった。綺麗な顔立ちをしているが、やる気なさげに空中を見ている。他の2人はニコニコとしてるのに感じが悪い。
ただ……召喚士というのが、すごく驚いた。本物なのかしら?400年に一度出現するかしないかの能力を持っている。初めて見た。神殿の機密情報に入るくらいの人なのかも。
でもねぇ~。ここは、レオナルド様一択でしょ!?
「大神官長様、選んでも良いんですか!?」
「バカモノ!選べるわけなかろう!こちらで決めた。レオナルドはエレナ。マテオはミリー。セスはラウラに仕えよ」
よろしくお願いしますねとにっこり素敵な笑顔でエレナに微笑むレオナルド様。少し恥ずかしそうに下を向くエレナ。絵になる二人だった。
誠実なマテオは幼いミリーが重責に震えていることに気づき跪いて、大丈夫ですよと声をかけた。優しいお兄さんだ。
「はー、めんどくせー」
はい?私の担当となったセスという男は髪をくしゃくしゃさせて心底めんどくさそうに言った。
「め、めんどくさい?」
「あたりまえだ。なんでこんなことに巻き込まれないとだめなんだ」
私だって同意見よ!サッと私は手を挙げる。
「大神官長サマー。私、ハズレくじはいりませーん」
ラウラっ!と大神官長様が怒りの声をあげる。
「ハズレくじ!?それはこっちのセリフだろ。こんな態度が悪そうな聖女候補!あっちの大人しそうなエレナとかいうやつの方がオレも良い!このハズレ聖女!」
「なんですって!?守るべき対象の聖女にそんな口きいていいわけ!?」
「はあ?オレはイヤイヤ連れてこられたんだよっ!」
「じゃあ断わればいいでしょ!?」
ウッと言葉に詰まるセス。なにか引き受けさせられた理由があるらしい。
「ラウラ、セス!いい加減にしなさい。大神官長様の怒りに触れたいか!?」
私は黙る。セスも目を伏せた。神殿の者たちは大神官長様には逆らえない。逆らえぬようになっている。
「ハズレの者同士、せいぜい仲良うするんじゃな」
ハズレの者同士!?大神官長様の言い方に反論したかったが、それ以上は言えず、無言で私もセスは顔を見合わせたのだった。
「正式な聖女を選ぶために、3つの試練を越えてもらう。聖女候補と聖女の守護者、共に力をあわせ乗り越えよ!」
ビシッとかっこよく大神官長様が決めゼリフのようにそう言った。
3つの試練ってなんなのよ。でも乗り越え、聖女になって、絶対的地位を手に入れてみせるわ!目指せ権力者!!
表面上はハイと素直に答え、内心ではかなり腹黒い野望を持つ私なのだった。
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