第3話 3人の聖女候補

 遅めの夕食を私が食堂で食べている時だった。たまたまエレナとミリーと出会ってしまった。


 トマトソースのパスタを白い神官服に飛ばさないように、そーっと慎重にクルクルと巻いている私の方へやってきた。この入り口付近の席は失敗だったかもしれない。人が立ち止まりやすい。


「ラウラが選ばれるなんて思いませんでしたわ。でも大神官長様にハズレコンビ認定されてましたわね?面白かったですわ」


 エレナは意地悪い顔をしてそう言う。大神官長様の前に立っていた時とは、別人のようだ。


 ハズレコンビですってー!とクスクス周囲から笑い声が起こる。


「エレナさん、そんな事言ってはいけないのですぅ〜。ラウラさんはなぜか強いのです〜」


 と強調して言うミリー。今のもしかして嫌味かな?


「エレナ様が一番、ふさわしいわ!」


「ラウラなんて、態度も性格も悪いのになぜ選ばれたのかしら?」


「清らかでもなんでもないわよね。なにかの間違いよ」


 エレナの取り巻きの女性神官たちがそう言って、私を見下すように見て、クスクス笑う。


 私は相手にせず、パンをちぎって、バターを塗り、もくもく食べる。


「しかもラウラの聖女の守護者に指名された方は見たこともない、冴えない人で可哀想でしたわ。ハズレの守護者ですわ。召喚士と言ってましたけど、どこまでそれが本当なのか怪しいですわ。詐欺師の予感ですわね」


 エレナがそう言う……冴えない?まぁ、セスは確かにやる気なしオーラがでていた。それにレオナルド様に比べたらハズレ感は否めない。召喚魔法もまだ見たことがない。珍しい魔法だから誰も見たことがなく、本当かどうか怪しい。私は反論できなかった。


「エレナ様はさすがですわ。あの騎士レオナルド様って聞きました!羨ましすぎます!」


 キャーキャーとうるさい声が食堂に響く。


「やめるのですぅ。ラウラが可哀想なのです!」

 

 ミリーがそう止める。しかし、その顔は笑ってる。私は肩をすくめる。食事を途中にし、立ち上がる。このまま食べていても美味しくない。


「逃げますの?……でも相応しくないと思うならば自分から辞めると言う方が身のためですわね」


「ラウラさんには荷が重いのですぅ」


 エレナとミリーがそう私に言う。どうやら二人の聖女候補は私が自主的に聖女候補から降りるように攻撃を仕掛けてきてるらしい。


「私を貶める暇があるなら、聖女候補として自分のすべきことを考えて行動したら?」


 ……カッコいいセリフ言ってみたけど、実は私も何をすれば良いのか知らないけど。


「別に貶めてなんていませんわ!あなたなんて相手にもなりませんもの!」


 エレナは私にマウントをとられてなるものかと、慌てて強気で言い返してきた。


「エレナ様になんて言葉を!?聖女候補に選ばれたからって調子にのってるわ」


「身の程知らずなのよ。自分から無理だって言って候補を辞退すべきよね」


 私は嘆息する。取り巻きはもちろんエレナ寄り。ここは堂々と言っておくべきね!と腰に手を当て、全員を見据えた。


「腹黒上等!性悪上等!聖女として絶大な権力、そして生きるために不自由しないお金を手に入れるためよ!自分の欲しい物のために頑張ってなにが悪いの?」


 開き直るつもり!?とか俗っぽいことを!など皆がいいですが、私の心にはまったく響かない。フフンと笑ってみせた。


 完全に悪役雰囲気の私である。


「お金と権力があれば大抵のことは叶うわ!聖女の地位は私が頂くわ!」


 きっぱりハッキリ清々しいまでに私は言い切った!


「聖女候補になってもやっぱりラウラは変わらないのですぅ〜」


 そう幼いミリーはお手上げのポーズをしたのだった。エレナの方は取り巻きの中で穏やかな顔を崩さずにいたが、嫌な雰囲気を漂わせている。


 エレナは見た目は一番聖女らしく清らかで美しいのだが、性格があまり好ましくないことを私は長年の付き合いのため知っている。


 神官仲間の中で、カースト制度を作り、取り巻きと共にいじめて、気に入らない神官を辞めさせたり自分より可愛いと言われた子には、わざと変な噂をたてて、居られなくしたり、物を隠す、無視をするような嫌なやつだったりする。しかし成績優秀、生活態度も良いため、目上の人から好かれている。


 私にいじめを仕掛けた時もあったが、どうやら後悔したらしく、それ以来距離をおかれたが、今回は邪魔らしく近づいてきた。


 どうやら地位とお金は簡単に手に入らないものらしい。前途多難かも。私は本日、二度目のため息をついたのだった。


 でもどうしても、私は聖女の地位を手に入れて、神殿の組織の上へ登りたい。その理由は私の奥深くにあるが、今はまだ語らず、眠らせて置きたい。その時がくるまでは。

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