第4話 力は八分目までにしておくこと

 試練とは関係ないものの、定期的に癒やしの力を世界樹に注ぎ込むことで、枯れていくスピードを遅らせることができる。そのため、私達、聖女候補の三人は世界樹の場所へ定期的に行き、木を癒すという仕事を命じられた。


 私とセスは世界樹の出入りを許された者として、神官達が守る厳重な警備の中、通してもらえた。


「ちょうど先程、ミリー様もいらっしゃいました」


 へーと私はセスと一緒に行く。太い木の根がウネウネと地表に出ている。


 運動神経が悪くない私はヒョイヒョイと根の間を軽やかに跳んで進んでいく。ダラダラと遅れがちについてくる私の守護者である召喚士のセス。


 巨大な世界樹の下に小さな祠がある。そこにいたのはミリーと大男のマテオだった。


「ちょ、ちょっと!ミリー!!どうしたのよ!?」


 ぐったりとしたミリーをマテオが抱きかかえている。マテオが沈痛な顔をする。


「力の限界まで世界樹を癒やし続けたのです。止めたのですが、自分の役目だと言い……倒れてしまいました」


 私は眉をひそめる。


「……ったく、もうちょい要領よくやりなさいよね。こんなことで倒れるなんて損しかないわ」


「は!?今、おまえなんか毒々しいこと呟かなかったか!?」


 セスに聞こえたらしい。私は気のせいよと言い切ってから、仕方ないわねとミリーの額に手を当てて、少しだけ私の力を分け与える。まつげがピクリと動く。これで大丈夫だろう。ありがとうございます!と何度もマテオが私に礼を言う。


 私とセスはミリーを抱えて去っていくマテオを見送る。


「もう少し力を分けてやれば目覚めるんじゃないのか?」


「怠け者の召喚士は意外とお人好しねぇ。なぜ私がライバルを助けなきゃいけないのよ。むしろ3日ほど寝ててもらえば、その間に私が世界樹をものにするわっ!」


「世界樹をものにする!?そんな話じゃなかったよな!?」


 ウフフと私は黒い笑いを浮かべる。セスは無言になった。


 祠に辿り着き、口の中で癒やしの言葉を紡ぐ。世界樹に向けて力を降り注ぐ。それは白い光となり、吸い込まれてゆく。


 ………世界樹のキャパシティは半端ないわね。こっちの力を吸い取られていく。限度が無い。なるほど。これはミリーが倒れたのも無理はない。気を抜くと全部持っていかれる。私の額に汗を浮んできた。これ以上は危険だと察し、力を調節して、世界樹と自分を切り離す。


 呼吸が乱れかけるが、深呼吸をし、整え、何事もなかったように、私の力どうよ?見てたでしょう?と振り返ると………うたた寝してるやつがいた。あぐらをかいて肘をつき、ウトウト気持ちよさそうに木陰で平和な顔そのもので寝ている。すごく殴りたい。


「なに寝てるのよ!?」


「あー、もう終わったのか?暇だったからな」


「私が倒れたらどうするのよ!?ここは見守っていて、支えるところでしょ!?」


「いや、限界まで使わないだろ?そんなタイプじゃないだろ?」


 そのとおりだった。役目は果たすし、聖女としての地位も狙ってるけど、自分の命を削ってまで頑張るのは、ごめんだわって思ってる。


 そもそも生きてないと稼いだお金も地位も無駄になるってものよ!


「だが、さすがだな。力の制御と強さは確かに聖女候補のなかで一番かもな」


「もっと褒めなさい。称賛の声はどれだけ聞いても気持ち良いわね!」


「なにドヤってんだ?二度と褒めない」


「なんでよっ!寝てるだけなら、褒め言葉くらい考えておきなさいよ」


「おまえを褒める言葉を考える時間があるなら、昼寝したほうが良い!」


 私達はギャーギャー言い合いしながら世界樹の祠から出ていった。きっと世界樹が喋れたなら、うるさい!と怒鳴られていたことだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る