第6話 試練その1「あの山へ登れ」

 3人の聖女候補とその護衛が呼ばれる。大神官長様から直々に試練その1『世界樹の水脈となってるスエナ山脈を調査せよ』と命じられた。


 まさかの登山。早朝、薄暗いうちから、私達は集まっていた。エレナは優しい騎士のレオナルドが荷物を持ちますよと言い、二人で和やかな雰囲気で旅立った。ミリーはマテオがヒョイッと片手に軽々と抱き上げて、しんどくなるでしょうからとあまり歩かせないつもりのようだった。優しさで溢れてる。


 私は……というと。


「あら?ラウラの護衛さんはどうしたのかしら?」


 エレナがご愁傷さまというような顔をした。セスのやる気ない態度は他の人にも伝わっている。


「寝坊でもしてるのです?悪いけど、先に出発するのですぅ〜」


 ミリーも口元が笑っている。


 ………薄暗い中、私は待ち続けていたが、すぐに飽きてきてしまい、水筒の中の温かいお茶を飲む。早起きなんてするんじゃなかったわ。どうせセスは起きないんだから。


 だいぶ相手の性格がわかってきた。イライラするだけ無駄だ。それに調査せよと言われたところで、神殿はすでに調査済みのはず。


 何を大神官長様はさせたいわけ?私は疑問を持たずに登って行った二人の聖女候補がすごいと思う。私はひねくれてるのかしら?


「あれ?みんな行ってしまったのか?」


「セス、遅いわよ」


 寝癖のついたダークブラウンの髪を手ぐしで直しつつボーッとした顔で現れた。


「あんまり怒っていないんだな?」


「水脈の調査、必要かしら?って思ってるのよ」


 私の言葉に眠い目が見開いた。そして目が覚めたようだった。


「ふーん、おまえ、バカじゃなさそうだな」


「何を偉そうに言ってるのよ。遅刻魔が!」


「あー、まぁ……遅刻は悪かった。朝、早すぎんだよ」


 私はすっかり明るくなった空を見上げる。


「でも一応、調査をするという姿勢は見せておかないとね。行きましょ……あら?登山の道具忘れたの?」


「真面目に行くつもりなのか?めんどくさいだろ」


 心底イヤ~な顔をしている。彼もまた水脈の調査は無意味だと思っている。なんにも考えていないように見えて実は考えている?


「遅れを取った分は巻き返す」


 そう言うとパンッと彼は両手を合わせた。すうっと空気を吸い込み、詠唱していく。朗々とした良い声が歌うように術を紡いでゆく。


 魔法陣が浮かびあがり、輝く中から現れたものがいた。パサッパサッと小さく羽根を羽撃かせる。こちらを緑の目で見たのは白く巨大な鳥だった。こ、怖いんですけど?


「うわ……」


「上に乗れ」


「いや、無理よ」


 白い鳥は黄色い目でこちらを見て、くちばしを向けた。足が大きい……怖い!私、鳥、得意じゃないのよ。


「文句を言うなよ。山登りしたいのかよ!?」


 セスは及び腰になってる私の体を軽々と抱き上げる。そして鳥の背中に身軽に跳び乗った。見た目より力持ちなのね。鍛えてるのかしら?


 ……いや!そんなこと考えてる場合ではないわっ!本気で鳥に乗って行くの!?


 鳥は『飛べ!』と命じるセスの意のままに、バサッと羽を広げて空へ舞い上がった。

  

「ちょ、ちょっと待ってええええ!た、高いいいいい!高すぎる!」


 揺れるし!高いし!落ちたら死ぬよね!?


「うるさい。耳が痛い。掴まっていれば大丈夫だ。なんなら目を閉じてろ」


 落ちないように後ろからセスが抱きとめるように居てくれるけど、恐怖心は薄れない!


「これってズルなんじゃないのーーっ!?」


 粛々と山登りをしている他の聖女候補たちをあっという間に追い越していく。ヒュウッと風を切って、崖の壁を登っていく美しい白い羽を持つ鳥。


「召喚士が召喚魔法使って、何が悪い?山登りしろという決まりでもあったのか?」


 ……無いけど。


「オレのモットーは『楽に効率良く』だ!」


「怠け者の言い訳じゃないのっ!もっとゆっくり飛んでえええ!」


 私とセスは山の水源に一番のりしてしまったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る