第7話 聖なる場所でもハズレコンビは賑やかに

「一番乗りのようね!」


「さっきまでビビってたのに、切り替えはえーなー」


 鳥の背中に乗った時はどうなるかと思ったけど、無事につけた!生きてて良かった!しかもまだエレナやミリーの姿は見えない。怖い思いをしたかいがあったというものだわ。


「へー、こんな場所があるとはな」


「え?知らないの?神官になるための巡礼で、ここに一度は来るでしょう?」


「オレは神殿にいるけど、神官のようで神官ではないからな」


 セスの説明がよくわからなくて、首を傾げてしまう。


「綺麗な場所だな」


 セスはそう言うと石を1つ拾い上げる。水晶のように透明な色とりどりの石が転がり、水は淡く光っている湖だった。周りはむせかえるような緑の木々に囲まれ、上から小さな滝が水しぶきをあげて落ちて光に反射し、虹ができている。湖の中心に小さな島があり、そこに小さい祠が見える。


 ここへ巡礼に来たのはいつだったかな?懐かしい。


「思い出が蘇るわ。ここで、水遊びしたくならない?」


「は!?」


「滝とかシャワーみたいでしょ?私が来た時はちょうどすごーく暑い日で、つい、水遊びしてはしゃぎすぎて………」


「いや、おかしいだろ!?こんな神聖な空気の中でしたのかよ!?なに海水浴みたいなノリで言ってるんだ!?」


「水も透明で綺麗だし、遊びたくなるじゃない?で、祠の前でバシャバシャしてたら、怒られちゃって、一ヶ月、神殿のトイレ掃除の罰当番をした思い出よ」


「……神聖な世界樹の水脈の思い出がトイレ掃除の罰当番とか、おまえ……どうなんだよ」


 ほら、あの祠よと私は指差す。祠にも異常は見られない。昔と同じようにある。湖の真ん中にあり、あそこまで水に浸かって歩いていかなければならない。


 どうする?とセスの顔を見ると、私と同じ事を考えていたらしい。


「なにも変化なし、異常なし!把握した!よーし。帰るか」


「ここから見て終了!?」


 目視で終わり!?


「おまえが水遊びしたいっていうなら、止めない。一人で行って来い。オレは濡れたくない。めんどくさい!」


「この怠け者召喚士ー!」


 そう私が叫んだ時だった。背後から声がした。


「ラウラ!?どうやってここへ先につけたのですの!?」


 2番目についたのはエレナと騎士レオナルド様だった。二人が並ぶ姿は絵になる。背の高いイケメン騎士様が細くてか弱そうな彼女を守っている。……エレナの内面はかなり図太いけど。


「ちょっと近道しちゃった」


 空からね。そう心の中で付け足す。一瞬、私を見るエレナの顔が醜悪に歪む。その表情に嫌な予感がした。自分より秀でてる者がエレナは大嫌いなのだ。それでも素敵なレオナルド様の前で本性を出すことはなく、微笑みを浮かべる。


「もう祠は行ったのかしら?」


「え?ま、まだよ」


 あ、正直に行っていないことを話してしまった。見たことにしておけば行かずに済んだのに。


「じゃあ、一緒に参りましょう」


 私を誘うエレナ。


「じゃあ、がんばって」


「行かないの!?」


「あたりまえだろ?水、冷たい」


 やはりセスは行かないとアッサリ手を振る。


「この流れだと、しかたないなと一緒に来るもんじゃないの!?見て!?あのレオナルド様の姿をっ!」


 エレナが水の中で転ばないように両手を繋ぎ、そっと支えて歩いている。美しい二人の姿。


「おー……冷たい中、ごくろうだなー」


 なんにも感じないらしい。ハズレ守護者すぎる!この人、本気で聖女の守護者をしようと思ってない!胸倉を掴みたい。そう思ったけど、他力本願で権力やお金を手に入れられるなんて、甘いことを私は考えていないわっ!私、一人でも行くわ!


 ざぶざぶと私は水の中へ足を踏み入れ、セスを置いてエレナ達に遅れないように湖の真ん中の祠へと向かったのだった。

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