第8話 水の御神体は怒る

 祠へと歩いて行く途中で、エレナがクスッと笑った。その笑顔に嫌な予感が拭えない。


「ラウラの守護者は何してますの?」


「あいつ……また……」


 エレナがそう尋ねると、レオナルド様がボソッとそう言い、苦い顔をし、セスの方を見る。


 水の中を歩きながら、私は時折、膝までくる水に足をとられかけて転びそうになる。一度、本当に水の中へ落ちそうになった時だった。


「キャッ!」

 

「大丈夫か!?」


 スッとレオナルド様が手を伸ばして、私を助けてくれる。思わず驚いて見つめると目が合う。


「す、すいません」


 顔を赤くして、謝る私に横からエレナが怒りを含んだ声をあげた。


「レオナルド様!レオナルド様はわたくしの守護者ですわよね?ラウラなんて放っておいてくださいません?」


 え?あ……しかし……とレオナルド様は困った顔した。放っておけなかったというところなのだろう。やはり……レオナルド様はアタリだと思うわ。いいなぁ……エレナ……と羨ましげに私は水辺にいるはずのセスをちらっと見た。


 ………え?ええええ?


 小さな木陰で昼寝してる!?寝転がってる人の姿が見える。水をかぶせてやりたい衝動に駆られる。見ない方が良いわね。見ると腹が立つので祠だけを見る。


 足が冷えてきたころ、祠についた。草の上にポタポタ水が落ちる。


 小さな祠には昔と変わらない水晶のような球体の御神体が飾られていた。


「先にラウラが触れてみていただけるかしら?」


「御神体に?それは許されないことではないの?」


 エレナの提案に私は首を傾げた。


「調べないと異常があるかどうかわかりませんわ」


 はっきり言って、私はこんな御神体信用していないので、そっと扉を開けてみる。スッと吸い込まれるような球体の透明な中にチラチラと燃えるような青色の炎が見えた気がした。


 ……気のせいだと思うけど。


 綺麗な球体に、ひび割れも割れた箇所もない。


「大丈夫そうよ」


 私がそう言って御神体を戻した。エレナがおどきなさいと言って、私を突き飛ばす。そして自分が触れてみる。


 その瞬間だった。球体から水が怒りのように吹き上がり、大量の水が流れ出す。驚いたエレナが球体を落とす。水の中に………まずいと私は思った。祠にこの球体を納めて置かなければならないんだと本能的にそう思う。


 拾わなきゃ!私は水の流れに翻弄されつつ、球体に慌てて手を伸ばす。届いた!手に硬質の手触り。


「エレナ様!こっちへ!」


 レオナルドはエレナに手を伸ばして、近くの木々に捕まり、体が流されないようにする。私は必死で球体を祠に戻したが……足の力が無くなり、力尽きて、流されていく。ゴオッと耳の奥で渦巻く水の音がした。


 流されていく!そう思った瞬間だった。水の中で何かが私の体を浮かせた。そのまま私の意識は途絶えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る