第9話 本物の召喚士!?
「親切なパン屋さん、どうかパンをください」
幼い私が頼めば、仕方ないなと固くなって売れなくなったパンをいくつか袋にいれてくれる。
「ありがとうございます」
そう言って、帰り道は何か落ちていないか探しながら帰る。
ゴミを拾って生きている。この都市は大きいから、まだ使えるものがよく捨てられているのだ。だから私達みたいな孤児も生きていける。ブカブカの靴を履いて、足を引きずるように歩く。
コート欲しいな。寒くなってきていて、袖の短い服から出ている手が冷たかった。ハァ……と白い息を吹きかける。
薄暗くなった街。一軒の家野ドアが開いた。
「おかえり。寒かったでしょう?温かいココア入れてあげるからね」
それは私に言ったのではない。学校から帰ってきた子供が嬉しそうにただいま!と言って中へ入っていく。それを私は立ち止まって見ていた。あんな優しそうな女の人がいる温かなお家に入れる子どもはなんて幸せなんだろう。
チラチラと白いものが空から降ってくる。いつかきっと私もあんなふうに暮らせるようになりたいわ。外から眺める家々の灯は私の憧れの生活だった。叶わないと知りながらも、想像してみる。
寒い………寒いけど暖炉の傍にいるような熱を感じる。
ハッ!と私は目を開けた。ここ……どこだっけ?洞窟の中?薄暗い中、岩の天井が見えた。
「こんなとこで死んでたまるかーっ!」
私はそう叫び、起き上がる。こんなエンディングはイヤー!今の夢、走馬灯みたいじゃなかった!?危ないっ!
服がずぶ濡れだった。冷たさはこれだったらしい。どうやら意識を失っていたみたいね。パチパチと赤い炎をあげて焚き火がたかれている。
「おい、大丈夫か?そんだけ元気に起きれるなら、聞かなくても大丈夫っぽいけどな。服を脱がせたほうが良いかと思ったけど、怒るかと思って、触れられなかった」
セスの声がして、私はバッと起き上がった。下に自分のコートを敷いて寝かせてくれていたようだった。セスのコートまで濡れてしまっている。
「あ……コート、ごめんね」
「いや、体調は?悪くないか?なんかうなされていたが……?」
「ちょっと夢見が悪かっただけ。大丈夫よ」
パチパチとオレンジや赤色に燃える炎。セスがハァ……と嘆息した。
「御神体の力、甘く見てたな」
「ほんとね……あんな力があったなんて知らなかったわ」
エレナは知っていたのだろうか?だから私に先に触ってみてと言ったの?ありえるから怖いわ。
「セスが助けてくれたの?」
「オレの召喚したやつが助けたんだけどな。今、外に待機してる」
洞窟の外は雨が降っている。外に待機?なにがだろう?私は興味が湧いて、洞窟の外に顔を出した。
「な、なによこれーーーっ!?」
空中に大きな竜がうねっている。空にかかる雨雲は竜が呼んだらしい。雨が降りっぱなしである。
「水の中の物を拾うには、専門のヤツがいいだろ?」
「何人救うつもりで出してんのよっ!」
巨大な竜は悠々と雨雲の影に隠れて、セスを見て、にっこり笑っている気がしたのだった。本物だ。本物の召喚士だとセスを認めざる負えない私だった。
超怠け者だけどね。
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