第21話 崩れそうなパンケーキ

 チョコシロップとハチミツがトローリとカリカリのパンケーキの端から零れ落ちてきた。その周りには色とりどりのフルーツがどっさり盛られている。さらにバニラアイスが添えられて

豪華なデカ盛りパンケーキを作り上げていた。


「イチ、ニ、サン……ジュウ……10段はあるわね。このパンケーキ!」


「数えてんの?さーて!食うぞ!」


 ナイフとフォークでサクサクと切っては口に入れ、吸い込まれるように無くなっていく。


「すごいわ……見てるだけで口の中が甘いわ」


 前回と同じデカ盛りシリーズなんだけど、パンケーキはさすがに重いだろう。食べ切れるわけがない。頑張るわねぇと私は濃いコーヒーを飲み、温かい目で見守る。


「美味い!やっぱり生クリームはたっぷりないとなっ!」


「甘いもの食べてるときだけ、生き生きしてるのは気のせいなのかしら?」


 私の言葉を無視し、パクパク食べるセスの顔は幸せいっぱいだった。あの王女様の前で見せた冷たい顔は……そして……神殿に命尽きるまでって……なんだか不穏な発言だった。気になって聞きたいのに、この場の雰囲気が相応しくない。


 食べ終えるのを待とう……。


 私はのんびり待つことにした。その10分後。


「アイス無くなったわね……パンケーキの山が崩れてきてる!?!?」


 あんなに大盛りだったパンケーキをもう半分まで食べ進めている。


 20分経過。残り少なくなってきた。ま、まさか!?完食するの!?フルーツに手を出し始めた!


 30分経過。からんっとフォークとナイフを置いて、水を飲むセス。


「はー!美味かった!」


「し、信じらんない」


 私は食べてないのに食べた気持ちになってしまい、コーヒーのおかわりをもらった。甘い匂いがセスからするような気がするわ。


「聞きたいことあるんだけど?」  


「なんだ?」


 甘いもので胃が満たされて満足してる。今がチャンス!


「セスは神殿に命まで預けてるわけ?」


「オレが?……預けているわけじゃない。あ、さっきのやつ?あれは召喚士を他のやつに渡すつもりが神殿にあるわけねーだろってことだ。おまえはどうなんだよ?聖女になれば金と権力はあっても普通に結婚して家庭を持つって未来はないぞ?その覚悟あるのかよ?」


 意外と人の感情や考えをセスは読み取るのねと私は少し彼を見直した。無神経な人ではないことがわかってきた。


「おまえの発言に少しひっかかるものがあるんだ」


 手にしていたコーヒーのカップをそっと私は置く。


「そう?お金と権力があれば、大抵のことはできるでしょう」


「それで幸せなのか?」


「わからないけど、あって困るものではないでし!」


 セスはジッと青い目で私を見る。何かを見抜くかのように。でもきっと見抜くことは不可能だ。


 私の本当の心も姿も誰も知らない。

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