第22話 憂鬱な王女様②
仕事よ!これは仕事なのよ!と自分に言い聞かせて、第三王女シシリア様の傍へ行く。
「下賤な者の匂いがするわ」
私は思わず、神官服の匂いを嗅いだ。洗濯したての洗剤の香りしかしない。びっくりした。
「そういう意味じゃありませんわ!疎い方ね」
「えっ?えーと、シシリア様はどこか痛いとかありますか?」
営業スマイルを私は浮かべる。金の髪を人差し指にくるくると巻きつけるシシリア様。
「あえて言うなら、胸……かしら?」
胸?病気の類なのかしら……私は眉をひそめる。病気には治せるもの、治せないものがある。シシリア様はどうだろう?大丈夫だろうか?
「ちょっと触れてみてもよろしいですか?」
癒やしの力をとりあえず使ってみようとシシリア様に、そうお願いしてみた。
「嫌ですわ!知らない方に触れられるなんて!わたくしに触れて良いのは1人だけですわっ」
「それはどなたですか?」
激しく拒否された。専属の医師にいつも診てもらっているのかしら?私じゃダメってこと?
……あれ?なぜか頬を染めてる?
「い、言えるわけありませんわ」
埒があかない。私とシシリア様のやりとりを見ていたセスがイラッとした口調で言葉を挟んできた。
「オレたちは不要ってことで、良いみたいだな。さて、デカ盛りパンケーキ食いに行くか」
「ちょっと!セス!」
私が黙ってなさいよと怒ろうとしたときだった。
「まぁ!なんて美しい顔のお方!」
『は?』
私とセスは間の抜けた声をあげた。
「そこの男性の方、わたくしの従者になる気はありませんこと?見たところ神官ですけれど、顔が良いから従者にしてあげてよ」
「どういう……?」
困惑するセス。シシリア様の傍に付いていたお世話係の人は変な汗が吹き出てきていた。それを拭きながら話し出す。
「シシリア様は美しいものが……特に美しい男性がお好きなのです。でも今回はどうしてもその美しい男性はシシリア様の手の届かない方でして……それで拗ねて……いえ、心を痛めていたようです」
美しいものに罪はないですわとフッと笑うシシリア様だったが、私の癒やしの力ではどうにもならない。
「えーと、恋の病は私の力では癒せません」
個人の嗜好も治せません!と私は心の中で付け足す。
「あなたもわたくしの傍にいることを許して差し上げるわ」
「こわ……」
そうセスが呟くが、シシリア様は止まることを知らないらしい。
「今すぐ神殿に連絡しなさい!そこの男性をわたくしの従者に召すのですわ!」
「あのー……ほんとにセスを?」
もちろんですわっ!と意気込む彼女に私は確認したが、ひかないようだ。
この王女様の仕事、嫌になってきた。めんどくさすぎるし、精神的にもなんかきつい。
「めんどくさ……」
そう私の心を代弁するかのようにボソッとセスは腕組みをして言った。そして私が今まで見たことないゾクッとするような冷たい笑みを浮かべた。
「神殿に聞いてみろよ。オレを手放すかどうか。オレの゙命が尽きるまで無理だろうな。神殿がオレを自由にできたら王女サマのところに来てやってもいい。できるのか?」
王女様がビクッとその雰囲気に怯む。
セスは自分の身を神殿から自由にできたらこの変な王女様の従者になっていいくらい神殿から出たいの?神殿とセスには何かがある……それは最初からずっと気づいていた。普通の神官ではなくセスは特別扱いを請けてる感じがした。
「くだんねーことで呼び出すなよ」
じゃあなと部屋から出ていく。
「無礼な!」
そうお付きの人が叫んだ。しかしシシリア様は去って行くセスの背中を見て、こう言った。
「冷たさすら美しいですわ。気に入りましたわ」
私は慌てて、セスを追いかけたのだった。
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