第12話 怠け者の言い訳

 どうやら、セスの自由気ままな生活は神殿公認らしい。


「セス、聖女の守護者になったんだ。そろそろ真面目にしないとラウラさんも可哀想じゃないか?」


 レオナルド様が集まりの時にセスのダラ~と机に突っ伏して寝てる姿を見て、そう苦言を呈する。


「怠けてるように見えるかもしれないが、ちゃんとやるべきことはしてる。文句言われる筋合いはない」


「……寝惚け眼でなにを言ってんのよ。せめて姿勢起こしてから、カッコよく言いなさいよ」


 隣に座っていた私は思わずツッコミを入れてしまった。


「セスの力は特別だ。聖女と共に世の中の皆のために役立てようとは思わないのか?」


 レオナルド様の真摯な眼差しにセスははぁ?と首を傾げて、不機嫌になる。


「思わない。力があればなんでもしなきゃならないのか?自身の身を削ってまで?そんなのおかしいだろ」


「力があるなら、人々を救うことも可能だ。力がある者が力なき弱き者を助けるのは当たり前だろう!」


「聖騎士様って感じだな。いいんじゃないの?レオナルドは助けてやれよ。オレの力もやれるもんならおまえにやりたいくらいだよ」


 セスの言い方に鋭い眼光になるレオナルド様。穏やかな彼が椅子からガタッと立ち上がる。

 

「はい。ストーップストップ!」


 不穏な空気になったので、私は声を上げた。二人のギスギスとした雰囲気にエレナやミリーは怯えたように状況を見守っている。マテオは落ち着いた顔をしているが、殴り合いになったら止めようと思ったのか、二人の間まで移動してきていた。


「ラウラさんはこんなやつが守護者で良いのですか!?大神官長様もなぜこんなやる気ないやつを選んだのか!?そもそも神殿の仕事すらまともにしていないというのに!」


 あ、やっぱりしていないのね。セスは普通の神官がしている仕事は免除されているようだ。


「とりあえず、ちゃんと守護者としての仕事はしてくれているし、口で言うほど怠けてるわけじゃないってわかってきたし……」


「やるべきことはしてると最初から言ってるだろ」


 セスは堂々とそう言い放つ。私は庇ってるわけではないわと付け加えた。


 納得いかない顔をするレオナルド様。なんだかんだと他の聖女候補を心配してくれるなんてやっぱり優しい方だなぁと思う。


 聖女を守護する騎士は聖騎士と呼ばれる。正義感の強い彼にぴったりかもねと思う。


 セスと神殿の居住区へ一緒に帰る時、私は言った。


「セス、ホントは召喚士の力を渡せるものだとしても渡す気ないでしょ?」


 え?と夕暮れに赤く染まる白い建物を背に彼は驚いたように足を止めた。


「召喚獣たちがいなくなったら寂しくなるでしょ?召喚獣たち、あなたのこと、好きそうだもの」


 夕暮れで顔が赤いのか照れてるのか、どちらなのかはわからないけど、私がヒョイッと覗き込んだセスの顔は赤かった。


「うるせー……」


 力の無い声、そして目を逸らす。私は可笑しくてクスクス笑った。


「可愛い子達よね。また私にも会わせてよ」


 ああ……と聞こえるか聞こえないかの声が隣からする。まだ3匹しか見たこと無いけど、彼と召喚獣はいつも何かを語り合っているように感じた。だから要らない力なんて思っていない。ちゃんと自分の力を大切にしている。


 怠け者の言い訳は信用しちゃいけないわと思うのだった。

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