第27話 呼ぶ声は届かない

 任命式が近づいてくると、セスもさすがに帰ってきた。


「いやー、割と待遇いいぞ!3食昼寝、おやつ付き!」


「へぇ……いい仕事見つけたのね。そっちにしたら?」


 私の冷たい物言いに、セスが眉をひそめたが、言葉を続ける。


「たまに呼び出されたけど、寝てるから嫌だって無視していたら、明日から来なくてもいいって言われた」


「どこへ行ってもセスはセスなのね」


 また布団にかじりついていたのだろう。相変わらず、力を持ってる召喚士なのにブレないやつね。


「帰ってきたら、おまえが聖女に選ばれたっていうし、オレは正式な守護者になれと言われるし……なんで選ばれるんだよ……こんなめんどくさいものに」


 はぁ……とセスが心底めんどくさそうに言う。

 

「別にいいのよ?そのまま王女様のところにいてくれても」


「……え?なんかおまえ、変じゃないか?雰囲気変わったよな」


 この男が一番ラウラにとっての壁になる。そう判断する。怠け者のくせにやけに勘が鋭い。


「気のせいじゃない?私は私よ」


 変わったんじゃない。あなたは光の当たっているラウラしか見ていなかった。それだけだわ。


「聖女の仕事はちゃんとするわ。ご心配なく。守護者がめんどくさいなら、適当にしてもらって構わないわ」


「なんだよ?それ……」


「怠け者の召喚士さん。私に守護者はいらないわ。いつも通り、自分の好きなように過ごしていたらどう?」


 小馬鹿にしたように、クスクス笑う私を見て、セスは目を細める。青の目が怖いほどに鋭い光を帯びていた。


 怒っているの?もっと怒らせて私に近寄らないようにしないとね。


「地位とお金は私一人の物なのよ。あなたにあげるものはないわ!それともあなたも守護者としての地位や名声が欲しくなっちゃった?」


 扉の前にいたセスは私を軽蔑するように一瞥し、そしてため息をついてから、身を翻して、部屋から出ていった。


 そう。それでいいのよ。


 私の足元の影に閉じ込められた、ラウラはなぜか『助けて!』とセスに声をあげ、呼び止めていた。


 セスに手を伸ばしているその影をグシャリと踏みつける。あっけなく静かになった。


 助けて?誰に言ってるの?誰も助けてはくれないでしょう?あの男だって、ただ神殿に命令されてるから、助けてくれただけよ。


 シクシク泣くラウラの声が足元からする。うるさい。本当にうるさい。涙なんてずっと流してないでしょう?嘘泣きはやめなさい。

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