第35話 剣の手掛かり(前編)
ジオの記憶が戻っていたとしても、戻って無いにしてもジャック達はこれまで以上に先を急ぐ必要があった。
魔物がいつ集団で襲ってくるか分からないのだ。早く見つけないと、ただでさえ乏しい剣へのヒントが更に減ってしまう。
ジャック達がまだ回っていない村は三か所残っている。そのいずれかにジオの奥さんがいるかもしれない。そしてそこに剣がある可能性がある限り、ジャック達はそこを訪れなければならなかった。
残っている村はオスラから近い順にリンテン、レーヘル、フィンドルの三か所だ。
この三つの村は北部の辺境の中でも特に外れの方にある、いわば辺境の中の辺境と言われる地域に位置している。よって普段オスラなどの大きな町と人の往来はほぼ無く、それぞれが陸の孤島の様相を呈している。
それ故に今回の魔物襲撃のような情報は伝わっていない可能性が高い。ジャックは剣の探索以外に、そういった情報の伝達も自分の使命のように感じている。
「ふー、記憶が戻ってるなら自分で歩いてくれよー」
ジャックは滝のような大汗をかきながら、苦笑交じりに不平を述べた。
しかしジャックがそういうのも仕方がない面がある。今向かっている三つの村は辺境の中の辺境と言われるだけに、そこへと向かう道が整備されていない。ガタガタの上に坂道だらけなので、ジオを乗せた車椅子を押すのもこれまでとは比較にならないほど大変なのだ。
「がんばれー これも修行の内だー」
力仕事というものをしたことが無いピクシーは、のんきにジャックを励ます。
「……」
ジオは相変わらずジャックの剣を大事そうに抱えてニコニコしている。
結局リンテン村までは三日もかかってしまった。
「ひゃー 聞いてた通り、ホント田舎だねー」
住民の耳に入ったら怒られそうな感想を、ピクシーは無邪気に口にした。
リンテン村はパッと見たところ、住居が数十軒、人口百人ちょいといったところだろうか? あとは延々と畑が広がっている。まさに「のどか」という言葉を絵に描いたような村だった。
ジャック達の行動が早かったからか、こんな
となると、情報収集より優先させなければならないことがある。
ジャックは畑作業をしている村人を捕まえて、村人全員を集めるようお願いした。
絶対的な人数が少ないことに加え、こういった村に住んでいる人特有の
そんな期待を裏切るのが少々心苦しかったが、ジャックは魔物に関するこれまでの知見を村人と共有し、絶対にこちらから手を出さないよう呼びかけた。
しかし、メンドルフ村での一件の余波がこの村に届かないとは断言できない。この村の人は何もしていなくても魔物の襲撃に遭う可能性はゼロではない。ジャックは自分が出来ることの少なさに歯がゆさを感じずにはいられなかった。
他に出来ることといえば、ピクシーを通じてオスラのホラント辺境伯に警護の騎士団を派遣してもらうこと位であろう。
「ジオ様、ジオ様ではねーですか?」
ジャックが一人苦悩していると、一人の老人がジオの顔をしげしげと眺めた後、思い出したように尋ねてきた。
「……」
ジオはこれまで通りボケている。
本気なのか演技なのかは分からないままだが、ジャックは取り敢えずジオの意志を尊重して、その老人にはボケてしまっていると説明した。
それを聞いて老人は落胆したものの、懐かしさが上回ったのか感激した様子である。ジャックは村人全員を見回したが、同じように感激している老人の数は三、四人ほどいるようだ。
村人達が解散した後、ジャックはジオのことを覚えていそうな老人達を集めて今度は剣に関する情報収集を始めることにした。
人が少ない村だし、大した情報は得られないだろうとジャックはそれほど期待をしていなかった。しかし得られた情報の中にはビックリするような情報が含まれていた。
なんと昔ジオがこの村を訪れた時、ジオは帯剣していたというのだ。老人の一人がこの地を訪れた勇者様に「剣の指南」を願い出て、剣を数合交えたことを記憶していた。
この村にはなかったが、この近くに剣はあるのではないか?
ジャックの期待は高まった。
「よし、次はレーヘル村だ!」
その期待が冷めないうちに出発するべく、ジャックはまたジオの車椅子を押した。その手にはこれまで以上に力が入っている。
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