第34話 ジオの記憶
ホラント辺境伯の屋敷から宿屋へ戻る道すがら、ジャックとピクシーはジオに聞こえない様に声を押し殺して密談していた。
「なあ、ジオの奴完全に記憶戻ってないか?」
「うん。ボクもそう見えたけど……一時的なものなのかな?」
四十年前の魔物達との闘いの記憶は、ジオの脳裏に強烈に焼き付いていることだろう。その
「これまでも断片的に昔のことを思い出すことはあったよな? 今回も同じようなことなのかな?」
「でも、前はお酒を飲んだ時限定だったじゃん。しかも酔いがさめたらきれいさっぱり忘れてたよ」
今回はかつてない程に、はっきりと記憶が戻ったように見えた。そして最大のポイントはジオが酒を飲んでいないことだ。以前は酒を飲んで思い出したことは酔いがさめるのと共に忘れていた。
しかし今回は完全にしらふであった。話し方もこれまでにない程、はっきりしていたし、活舌も良かった。
「ってか、よくよく考えると酒を飲んだ時だけ昔のことを思い出すって都合良過ぎないか? もしかしたらずっとボケた振りをしてたんじゃないか?」
「でも、フリースラで三十年以上も介護生活だったんだよ? そんな長い間周りの人を騙すことなんてジオに出来る訳ないじゃん」
確かにジャック達が初めて会った時、ジオはボケていた。これはほぼ間違いないと思われる。しかしその後にジオはなぜか都合の良いタイミングで昔のことを思い出すケースが多かった。ジャックが不審に思うのも当然といえよう。
「お前のヒーリングが効いて、結構早い時点で記憶を取り戻したってことは無いのか?」
「うーん。ヒーリングがボケに効くかどうかなんて試したことなかったから分からないんだよね。ってか治ってたとするとジオはずっとボケた振りをしてたってことになるけど?」
ジオの記憶が結構前から戻っているとすれば、思い当たる点はいくつもある。
代表的なのはルースにサウスフォーヘンで料理屋をやれとアドバイスしたことだろうか? あれは色々なものが上手く行き過ぎて怖い位だった。
「確かにボケた振りをしていると考えると、ジオの目的が分からないな」
「でしょ? そもそも記憶が戻っているなら、魔物を撃退するためにも剣を早く取りに行こうとするんじゃない?」
ジャックもピクシーも様々な可能性について意見を出し合ったが、双方が納得できる答えにはとうとう行きつけなかった。
結果、ジオがこの先どういう反応を見せたとしても今まで通り接することに決めた。何故なら、ジオが自分達を悪いようにするとは到底考えられないからだ。
そのジオは、宿屋に帰ると何事もなかったように元のボケ老人に戻っていた。
ジャックもピクシーも「うーん」という表情を見せたが、先ほど決めた通りに今まで通りの対応をした。
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