第21話 港町サウスフォーヘン

 ピクシーのおしゃべりに付き合わされずに済んだのは良かったが、移動は困難を極めた。

 理由は二十六人いる子供達だ。一番小さい子が四歳なので、歩きでの長旅には耐えられない。そういう子はジオが乗っていた車椅子に乗せたり、ジャックが背負って移動することになる。

 ジオはというと、ジャックの剣を杖代わりにして歩いている。

 そんなこんなで移動速度は大人の半分ほど、四日の距離を七日もかけてジャック一行は港町サウスフォーヘンへ到着した。


 普通なら真っ先に宿屋を探すことになるのだが、なにぶん大所帯である。取り敢えず落ち着けそうな空き家なり、使われていない馬小屋なりを探す必要があった。


「酒場で色々聞いてみるか」

 これまで立ち寄った町での経験から、「勇者ジオ」の名前を使えば何かしら得るものがあるだろうとジャックは期待していた。


 酒場が盛り上がるには少々早い時間であったが、ジャックはあえてその時間にジオと共に酒場の扉をくぐった。


「お、いたいた」

 ジャックの目論見通り、早い時間なだけに現役を退いたであろう年配客が多い。当然年配者ならジオのことを知っているはずだ。


 すると目を見開いて数人の老人が席を立ちあがった。

「もしかしたらジオ様ですか?」


「……?」

 残念ながら話しかけた者達が男性だった為か、しらふだからかジオの反応は薄い。


「まーまー、駆け付け三杯!」

 当然のようについてきていたピクシーは素早く酒を注文すると、ジオに飲むよう促した。これで問題は解決する。


「おおっ! 久しぶり……の顔が、揃っておるな」

 かなり間が空いたことでみんなは「???」となっていたが、そんなことはすぐ忘れて歓喜に湧いた。ジオを囲っての宴会が始まる。


 ジオは盛り上がってしまっているが、ジャックは同じように飲む訳にはいかなかった。ルースと子供達を町の片隅で待たせているのだ。


「ところでみなさん。我々は泊まる場所を探しているのですが、無料、もしくは安く泊まれるところを知りませんか?」

 ジャックは酔っぱらった年寄りにも聞こえるように、はっきりとした大きな声でこう尋ねた。


 皆が皆、自分の家に来いと言ってくれたが、総勢三十名である。おいそれと好意に甘えることは出来ない。ジャックは続ける。


「実は大勢の子供を連れていまして、全部で三十人いるんです……」

 これを言うと全員引いてしまうかもしれないと思い、最初は言えなかった。しかし、言わなければ話は進まない。


 すると一人の老人が口を開いた。

「わしゃ昔この町で料理屋をやってたんじゃが、後継ぎがおらんでのぉ。三年前に廃業してしもうた。その建物で良ければ好きに使いなされ。三十人は無理じゃが従業員用の寮もついとるぞ」


 まるでオーダーしたかのようにピッタリの案件が、町に着いた途端に手に入ったのである。ジャックとピクシーは目を丸くしながら無意識にハイタッチをしていた。


 ジオを見ると酔って絶好調といった様子であったが、チラリとジャックの方を見るとウィンクして見せた。

 ここまで都合良く運ぶとは思っていなかったかもしれないが、ジオはこの老人をあてにしていたのかもしれない。ジャックはジオの表情を見てそう解釈することにした。


 ジャックとピクシーはその場所を聞くと、ジオを酒場に残してルース達と合流し、料理屋のあった建物に向かった。


「うわー 結構寂れてるねー」

 ピクシーがそういう程、建物の周りは雑草だらけ、建物の中も蜘蛛の巣が張ったりして廃墟然としている。


「でも孤児院より建物は立派だよ。子供達と協力すれば一日で人が住める程度には出来るはずさ」

 そう言ったルースの顔は希望に満ち溢れている。


 取り敢えず今日は床を軽く掃除してそのまま寝ることになりそうだ。

 しかし移動の七日間が野宿だったからか、文句を言う子供はいなかった。むしろ屋根がある所で寝られるだけで喜んだほどだった。


「明日からしばらくは忙しくなりそうだ」

 ジャックは既にこの料理屋を再開することで頭が一杯だった。恐らくしばらくはヘトヘトになるまで働くことになるだろう。そうなることを見越したようにジャックは早くもウトウトし始めていた。


「そういえばジオは迎えに行かなくて良いの?」

 ピクシーが思い出したように呟いた時、ジャックは既に寝てしまっていた。

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