第20話 ジオの提案

「君は、子供達が将来何になりたいか……知っておるか?」

 ジオであった。ジオは先ほどまで子供達と遊んでいた。しらふのジオは良くも悪くも子供と同じ視点で話が出来るから、きっとそんなことも聞いたのであろう。


「いえ……」

 ルースは改めてそう聞かれると、答えることが出来なかった。ただ、幼い子供らしく男の子は勇者や騎士、女の子はお嫁さんなどと言うのだろうとぼんやり考えていた。


 そんなルースにとっては衝撃的な答えをジオは告げる。

「泥棒……じゃよ。君の様な、な」


 そう、かつてルースが父親に憧れたように、現在の孤児院の子供達はルースにあこがれているのだ。それは決して健全なことではなかった。


「このままだと……多くの子供が、泥棒を、目指すじゃろう。それで良いのか?」

 ジオの口調は優しくたしなめるようだった。


 恐らく父親が他界した後のルースは困難の連続だったのだろう。それを思うと厳しく非難するのは躊躇ためらわれる。ジオもそういう気持ちなのだろう。


「他人の役に立つ……良いことじゃ。しかし、他人の……目標になる努力も必要じゃ」

 ジオは指導者然としてそういった。


 ジオが述べたことは正論だが理想論でもある。現実は理想論だけでは生きていけない。ルースに正論を突き付けるのなら、彼女が今後どうすべきなのか? という提案までセットにしなければ意味は無い。ジャックがそう思っている所へジオは続ける。


「サウスフォーヘンに……行って、料理屋でも……やってみるといい」

 ジオの提案は突拍子もないものであった。何処からその発想が出てきたのかジャックには想像がつかない。

 そもそもそんなに都合よく店が運営できるものなのだろうか?


「私が料理屋ですか?」

 ルースにしてみれば当然の疑問であろう。

 確かに孤児院の子供の食事は全てルースが作っている。同時に大量に作るという点ではプロ級だと言えよう。しかし、それは家庭料理の域を出ず、客に出せるレベルの料理かと言われれば若干の疑問符はつくだろう。


「君なら……貴族達から……レシピを盗み出せるじゃろ?」

 ノウハウはものじゃないから、と一応の理由をつけてジオはルースに最後のを持ちかける。


 確かに貴族の間で流行しているものは、その後少し遅れて庶民の間で流行するものだ。料理も同様である。ジオの提案はその流行を意図的に早く取り入れることによって他の料理屋に先んじようというものである。

 従業員はちょっと頼りないけど、子供の中の年長者何人かを使えば人件費も浮く。売り上げさえ立てば黒字にはなるだろう。子供達の分もまとめて作れば食費も抑えられる。


 ボケ老人の頭から即興で出たアイデアにしては意外なほどまともであることにジャックは感心した。

 しかもこのアイデアは既に子供達にも了解を取っているというから更に驚きである。


「どうせニオンの町も離れることになるから、俺達も一緒に行って料理屋の立ち上げを手伝うか!」

 ジャックもジオに負けじと即興のアイデアを提供した。むろんピクシーも大賛成だ。まぁピクシーは店のマスコットくらいしかできないだろうが……


 ここまでお膳立てが整うと、ルースもやらない訳にはいかない。子供達の手本となるべく新たな挑戦をする決意を固めたようだ。


 こうしてジャック達はリーネブルク公の策謀にまんまとはまった形でニオンの町を去ることになった。

 そしてルースや子供達と共に港町サウスフォーヘンを目指す旅に出た。


 今回は移動中のピクシーのおしゃべり相手が沢山いる。きっと移動は安らかなものになるだろう。ジャックは出発に際して胸をなでおろしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る