第46話 魔大陸へ
その男はローガンと名乗った。
ローガンが言うには、魔大陸を目指すのなら小型船じゃないと難しいらしい。大型船だと目立つから、魔物の標的にされるリスクがあるし、そもそも魔大陸には港が無いから大きな船を接舷させる場所が無い。その点小型船なら砂浜に乗り上げれば上陸が可能とのこと。
「まぁその代わりちっと揺れるけど、それは我慢してくれよな!」
ローガンは豪快に言い放った。
船乗りにとって船の揺れというものは取るに足らないもののようだ。
「は、ははは。よ、よろしく頼む、よ」
ジャックは船の揺れを想像すると、自然に愛想笑いが出てきた。選択肢のないジャック達はローガンに頼らざるを得ないのだ。
ローガンは船の準備が整うまで、ジャック達に自分の家で休んでいるよう促した。
そこには船乗りを引退したであろうローガンの父親の姿があった。
「魔大陸に渡ろうというのかね? このご時世にもの好きなことだて」
ローガンの父親は老人特有とでもいうのか、遠くを見つめるような眼をしてジャック達にそう言った。
「まぁ渡りたくて渡る訳じゃないがね……魔物と話し合いが出来ないかと思ってさ」
ジャックが魔物と話し合いたいという事を言葉にしたのはこれが初めてであった。
その言葉を聞いた途端、老人はジャックの目を見つめた。
「お前さん、勇者ジオを知っているかい?」
老人は意外な人物の名前を出した。
「勿論です」
ほんの一カ月前までは一緒に行動していました……などと自慢めいたことをジャックは言わない。
話を聞くと、どうやらこの老人が四十年前にジオを魔大陸まで運んだ時の船長だったようだ。
そしてジオもまたジャックと同じようなことを言っていたのだという……
ジャックはそれを聞いて自分の考えが間違いではないと悟った。それはジャックの自信にもつながった。
「上手くいくと良いな……」
そう言うと、老人は思い出の中に引き籠ってしまったかのように、笑みを浮かべたまましゃべらなくなってしまった。
「ようっ! 準備できたぜ。出発しようか」
タイミングよくローガンが声をかけてきたのでジャック達はその場を辞した。
ローガンの船を前にして、ジャックは自分で自分の頬を数回叩いて気合を入れた。それを見てピクシーも同じように頬を叩く。
魔大陸は目に見えるほどなので遠くは無い。とはいえ、あんな沖まで行くのにこの小舟で大丈夫なのだろうか? 気合を入れたものの、ジャックは不安を取り除くことが出来なかった。
「うぉぉぉ!!」
一時間後、揺れに揺れる小舟の中でジャックは幾度となく悲鳴を発していた。
しかし同時に気付いていた。ここまで揺れると生命の危機の方に気がいって、船酔いどころの騒ぎではなくなるという事を……
ジャックの肩に掴まっているピクシーも同様なのだろう。さっきから悲鳴の出しっぱなしで、とにかくうるさい。
ようやく魔大陸の砂浜が見えた頃にはジャックもピクシーもヘトヘトだった。
「よーし! 到着だ。気を付けて下りてくれよ」
ローガンはつい先ほどまでの揺れがまるでなかったかのように、平然と案内をした。
「助かったよ。いつになるか分からないが、また帰りもお願いできるかな?」
ジャックには当然帰りの手段もないので、このローガンを頼るしかなかった。まぁ送ってくれたのだから迎えにも来てくれるだろう、という気楽な場所では無いものの、この男は頼れるとジャックは確信していた。
「戻るときはここで狼煙でも上げてくれや。そしたら迎えに来てやるよ」
ローガンはニコリと笑ってそう言うと、船を離岸させオスラへと戻っていった。
「さて、いよいよ大詰めって所だな」
ジャックは魔物の本拠地とされる大地に足を降ろし、やや緊張していた。
ここから先は地図もないし、突然魔物が襲ってくるかもしれない……何が起こっても不思議ではない土地という事になる。
とにかくジャックはまず目的地を定める必要があった。当然魔物がいる場所という事になる。
ジャック達は砂浜から陸地に向かい、まず道を探した。道があればそれがどこかの町につながっているだろうという発想だ。しかし、いくら歩いても道のようなものは見つからない。
「ジャックー ボク達の町にも道は無いよ。理由は分かるよね?」
ピクシーはジャックが何を探しているかようやく気付いてこう言った。
「あっ!?」
ジャックは自分の浅はかさに気が付いて顔を赤くした。妖精族も魔物も空を飛べるから、地面の上に道なんてものは存在しないのだ。
ジャックはピクシーに頼んで上空から魔物の町らしきものを探してもらった。
「ここから北東の方角に町っぽいものが見えるよ。距離は歩いて一時間もかからなそうだね」
ピクシーはすぐ魔物の町を発見した。
そこに行けば魔物との交渉の糸口は得られるのか? ジャックはまだ確信出来ていない。
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