第37話 抜け道
「洞窟?」
ジャックは声のした方に向けて問い返した。
しかし全員目を伏せて何も言わない。
「ちょっと、ジャックあれ!?」
人の背丈の三倍ほどの高さに舞い上がったピクシーが、村の外れに何かを発見したようだ。
そちらに向かおうとするジャックは村人から無言の圧力を受けたが、それをあえて無視してピクシーの指差す方向を目指した。
すると、山肌にぽっかりと大きな穴が開いているのが見えてきた。入り口から見た感じでは相当奥まで続いているようだ。
ジャックは村人の元に引き返してこの洞窟について再度尋ねてみた。
しかし口籠るだけで誰も何も話してくれない。
「確か、洞窟を通ったと言っていたな?」
ジャックは先ほど口を滑らせたと思われる若者の言葉を思い出していた。
「この洞窟ってどっかに繋がってるのかな?」
剣への手掛かりがかろうじて繋がったことで、ピクシーのいつもの楽観論も復活しつつあるようだ。
誰も何も言わない為、この洞窟が何処につながっているかは分からない。繋がっていないかもしれない。しかし他の村で得たヒントが本当だとすれば、答えはこの奥にある。少なくともジャックはそう信じて、もうこの洞窟に入ることを心の中では決めている。
問題はジオをどうするかである。流石に洞窟の中で車椅子という訳にはいかなそうである。
「お爺ちゃん。洞窟の中を一緒に探検しない?」
ピクシーが取り敢えず……という体でジオに尋ねた。当然答えが返ってくることを期待しての問いでは無いだろう。
「ああ……いこう」
オスラからこの方、またボケが一段と酷くなってほとんどしゃべらなくなっていたジオが、片言ながら明確に答えた。
「やはりボケた振りなんだろうか……?」
ジャックはそう思ったが、ここはあえて声には出さなかった。
村人の「行くな……」という視線を一身に浴びつつ、ジャック達は洞窟へ向かった。村人は洞窟について一切しゃべらないので、何故入らない方が良いのかは分からない。
人を襲うような強い獣がいるのか? それとも魔物がいるのか? 命がいくつあっても足りない位の難所があるのか?
しかしジャックが思いつくこうした理由なら、村人は普通にそう注意するだろう。
いくら考えても疑問は解消されないが、ジャックに選択の余地は無い。
三人はそのまま洞窟へ入っていった。
ジャック達は警戒しつつ進んでいったが、これと言って何もない。
魔物はおろか、獣の姿も見られない。生き物といえば昆虫の類しか見かけない。
また、道も思った以上に歩きやすい。下手をすれば車椅子でも大丈夫だったかもしれない……そんな道が続いている。
「いよいよ分からないな。何で入っちゃダメだったんだ?」
ジャックは肩をすくめた。
「さー? お宝でも隠してるんじゃない?」
ピクシーはおどけている。
しかし実際そんな理由なのかもしれない。それなら洞窟に入って欲しくないことも、その理由を言えないことも合点はいく。
「そのお宝が勇者の剣なら申し分なしだな……」
ジャックもピクシーに合わせておどけて見せた。
……それにしても長い。ほんの数時間で答えが出ると思っていたジャックとピクシーは見通しの甘さを痛感していた。幸い食料は手持ちがあるし、水もそこら中から清水が湧きだしているので不自由はしないが、いかんせん時間が分からない。
「何時間位歩いたのかな?」
実際には歩いていないのにピクシーが疲れた! とばかりに情けない声を上げた。
これまでの旅でも長々歩くことは多かったが、その際は事前に何日位かかるか分かっていた。時間も太陽の位置で分かるから、残りの距離がざっくり計算できた。
同じ歩くにしても、あとどの位の距離が残っているかが分かっているのと分かっていないのとでは精神的な疲労度は違ってくる。
ジャックとピクシーがそういった精神的な疲労を蓄積させている中、ジオだけは平然としている。それは単にボケているからそういった精神的な疲労とは無縁でいられるのか、それとも残りの距離が分かっているからなのか……
ジャックは自身初となる洞窟内での野宿を経て、時間と空間に関する感覚がマヒし始めているのを自覚していた。二日目は何となく夢の世界を歩いているような感覚すらあった。
「あ、光が見える。出口かも!」
ピクシーの声が洞窟内ではじけた様にこだまする。
残念ながら洞窟内にはお宝はなかったが、とにかく出口についた。それだけでも今は嬉しい、と言った感じなのだろう。
「ふーやれやれだな」
洞窟の出口を目前にして、ジャックの全身に安堵の感覚が伝播していった。
しかし、それと同時に気持ちを切り替える必要を感じていた。
まず最初にしなければいけないのは、ピクシーのこの疑問に対する答えを見つけることだ。
「ここ、どこ?」
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