第41話 ジャックの選択
勇者の剣と思われるものが見つかったことで、取り敢えずジャックに課せられた王命はこれでほぼ終了した。後は王宮に戻って剣を納めれば任務完了である。
ジャックにしてみれば、落ち着いて考えたい事が山のようにあった。しかし現実はジャックに二択を迫る。
引き続きジオを探すか、王宮に出頭するかである。
ジオの捜索は時間を空ければ空ける程その足取りを追うのが難しくなるだろう。王命の完了は言うまでもなく、早ければ早いほど良いはずだ。
とにかく、ここで考えを巡らせているより行動しなければならない。
「さて、どうする?」
ジャックは自分が無心でいられないことを悟って、ピクシーに客観的な意見を求めた。
「取り敢えずこの村の人に聞いたら、ジオは洞窟から出てきてないみたい。だからフリースラ経由でジオを探しながら王都に向かうのが良いんじゃない?」
ピクシーの意見に一定の説得力を見出したジャックは、その案を採用することにした。
「たった二日の間に一往復半か……」
数日前まではその存在すら知らなかった洞窟なのに、ジャックは三度目の走破を目指している。頭の中では色々な思いが巡っているが、それをゆっくり整理する時間をジャックはまだ持てていなかった。
「今はあまり考えずに行こうよ!」
ここの所真面目な局面の連続だったので、ピクシーのこの明るい言葉は何か新鮮に聞こえる。
そうこうしている内にジャック達はベルゲン村に到着。一応見回したがジオの姿は無い。
よってそのまま村を出て、フリースラの町を目指す。
フリースラではあの女将さんに聞けば、ジオが戻っているかどうかはすぐ分かるはずだ。
ベルゲン村からフリースラまでは約三日の距離である。
ジャックは寝る間も惜しかったが、流石に不眠不休で歩き続ける訳にも行かなかった。
寝ようとすると、その度に様々なことが頭の中を駆け巡る。
それもジャックが立ち止まりたくない理由の一つになっていった。
「おや、久しぶりだね。顔色が悪いけど大丈夫かい?」
フリースラの酒場の先代女将はジャックの顔を見ると少し驚いたようにそう言った。
ジャックはその反応を見てジオの不在を察した。一応確認してみたがやはりジオはここには戻っていないようだ。
となると次に近い町は王都になる。
「王宮に顔を出すしかないか……」
ジャックは寂し気にそう呟いた。
王宮付きの戦士にとって王命は「絶対」である。王都に着いてしまえば捜索の任務中という言い訳は出来なくなってしまうので、一度王宮に出頭するしかない。
当然剣は王に献上しなければならないだろう。
「ジャック……言いにくいんだけど……」
ピクシーはまた、らしくないピクシーに立ち戻っている。
ジャックが自分の方を向いたことを確認してからピクシーは続ける。
「ジオの事なんだけど、以前はどうだったか分からないけど、少なくとも今はボケてはいないんだと思うよ。ジャックの前から姿を消したのはジオの意志なんじゃないかな? だから見つからないし、見つけて欲しくも無いんだと思う」
ピクシーは申し訳なさそうにジャックを見ながらそう言うと、ジャックの反応を待った。
「確かにそうかもしれんな」
ジャックは次に自分がどうすべきかをようやく決定することが出来た。
「よしっ! 王宮に戻ろう」
迷いがなくなったジャックはすっきりした笑顔をピクシーに向け、次の行き先を告げた。
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