第51話 地味な凱旋
ローガンの小舟で再びオスラに帰ってきたジャック達は真っ先にやらねばならないことがあった。
それは船酔いを治すことである。
ジャック達はローガンへのお礼もそこそこに、宿屋に急行した。
「魔物を魔大陸に封じ込めた勇者様の凱旋にしては、出迎えがずいぶん地味じゃないか?」
一応ジャックにはフラフラになりながらも、軽い冗談を言えるくらいの体力は残っていた。
もしジャックの言った通り、大勢の人から大歓迎でもされていたら、こうしてすぐベッドで横になることは出来かなったはずである。だからこれはこれで良かったとジャックは思っている。
「えー だってボクまだ王宮に何も報告してないもん。みんなジャックが何やったかなんて知らないよー」
ピクシーの方もジャック同様フラフラで、とても冗談に付き合う余裕は無さそうだった。
このピクシーの発言はジャックにとって少し意外に思えた。ジャックは口に出して褒めたことは無いものの、ピクシーのお目付け役や連絡係としての仕事振りを高く評価していた。確かに魔王城からここまで、あまりまとまった時間は無かったかもしれない。しかし、魔王城で何が起こったかを報告する時間が全く無かったとも思えなかった。
もしかしたらピクシーはわざと報告していないのではないか?
フラフラであまり回転しないジャックの頭が導き出した答えであった。
そう、魔王城での出来事によって、ジャックは下手をすれば国から手配され、捕縛されるかもしれないリスクを負っているのだ。
その罪とは……
一つ目は「魔物を駆逐せよ」という王命に背いて、勝手に魔王と不戦協定を結んできた件。
二つ目はこの後、勇者の剣を持って逃走を目論んでいる件。
である。
ピクシーが王宮に事実を報告していたら、ジャックはローガンの船を降りた瞬間に捕縛されていたかもしれない。現にこうして船酔いでフラフラしているのだから役人が一人、二人いたら簡単に捕まっていただろう。
だとしたら、せっかくピクシーが時間を作ってくれたのだ。この後どうするかを冷静に考えなければなるまい。ジャックは宿屋の天井を見つめながら現状を分析していた。
一つ目の選択肢は勿論、王宮に出向いて何が起きたかをつまびらかに報告することだ。王国の戦士としてはそれが当たり前の行動である。
元々与えられていた王命に背いたことは処罰の対象になるかもしれない。しかし、魔物を魔大陸に封じ込めたことと相殺してお
ただ王宮に出頭したら、その時点で剣を没収されるリスクがある。
流石にそれを阻止する為に、王宮の中でこの剣を振り回すわけにはいかない。
その後の剣の持ち主が流動的になれば、魔王との約束が確実に守れるかは分からなくなってしまう。それは自分の面子などは別にしても、大勢の人の安全の為にも避けなければならない。
もう一つの選択肢はこのまま剣を持って逃走することだ。
王宮には二度と戻れないから戦士もクビという事になるが、魔王との約束を確実に守り続けるならこれが一番だろう。
ただ、この場合やはり問題は指名手配されてお尋ね者になってしまうことだ。自分はまだしも、周りの者……特にお目付け役として自分についてきているピクシーに迷惑をかけてしまう。
ジャックはあれこれ考えた。要約すれば自分の保身か、魔王との約束……つまり平和を優先するかである。本来ならば迷う余地は無い……のだが、やはり引っかかるのはピクシーの事だった。
「少なくともピクシーは王宮に返してやらないとな……」
ジャックはそう呟くと、第三の選択肢を採用することにした。
ジャックはまだ船酔いが残る重たい頭を持ち上げ、傍らにあった剣を手にした。そしてまだ寝ているピクシーを起こさない様にそっと宿屋を後にした。
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