第13話 ジャックと子供

 ジオが言うから子供達の依頼を受けることにしたものの、ジャックは子供が嫌いだった。


 嫌いというより、ジャックにとって子供は未知の生物で、どう接して良いか分からない。当然自分にも子供時代はあったはずだが、そこらでギャーギャー騒いでいる子供を見ていると、「自分が子供の頃はこんなじゃなかった」としか思えないのだ。

 なので、これまでジャックは子供とは進んでコミュニケーションを取ることはなかった。それどころか、あからさまに避けてすらいた。


 今日はその未知の生物二十人が依頼者である。任務の為とはいえ、相変わらずジャックの気は重い。


「ところで、ボディーガードって子供を何から守るんだ?」

 ジャックはこの奇妙な依頼の詳細をピクシーに尋ねた。

 子供がボディーガードを雇うなんて話はあまり一般的ではない。しかも同時に二十人だ。この辺りでは誘拐事件でも頻発しているのだろうか? 


 ジャックの疑問はもっともだ、と言わんばかりに大きく二回頷くと、ピクシーは答える。

「ああ、ボディーガードといっても、子供達が森で昆虫採集をする為の引率ね。ちょっと前まで熊も出没してたし、子供だけだと危ないから親が森に行くのを禁止してるんだって」


 ……確かに昨晩ジオは「何でも言ってくれ!」とはしゃいでいたが、そのにはこんなことも含まれるのか? ジャックは愕然とした。

 この調子だと町の何でも屋に……いや、何でも屋は有償だから、こういった依頼は恐らく入るまい。

 ということは、このままだと何でも屋より遥かに守備範囲の広い便になってしまう。ジャックは先々のことを想像すると恐ろしくなってきた。


 とはいえ、依頼の明確な選定基準が無いのも事実である。強いて言えばジオが喜びそうかどうかだから、やはり子供からの依頼はなのだ。

 そんなことを考えながら、ジャックは二十人の子供の前に出ていった。


「おーカッコいー! 王国の戦士様だ」

「その後ろにいる爺ちゃんは昔の勇者様らしいぜ!?」

「すっげー! おれ、妖精って初めて見た」

 見たもの、聞いたものを何も考えずにそのまま口に出す子供達。それが交錯することで発生する無秩序、ただただ騒がしい空間。ジャックの最も苦手とするものだ。

 そんな状態が続いたことで、ジャックは無自覚の内にイライラしていた。


「はい。静かに。これから森に向かうから、はぐれずついて来いよ」

 子供相手の話し方を知らないジャックは、それまで感じていたイライラを無意識の内に言葉に折り込んでいた。

 子供達は期待外れのジャックの言い様に不承不承ふしょうぶしょう従っている、といった雰囲気だった。


「とりあえずここで良いか」

 ジャックは子供の頃、森で食料になる獣を狩ってはいたが、遊びで昆虫採集をしたことなど無かった。子供はどんな虫が捕りたいのか? そこからして分からない。

 取り敢えず自分の経験上、獣は水がある所に現れるので、虫も同様だろうとの考えから池の側に陣取ることにした。


「あまり遠くに行かないように! あと獣が出たらすぐ俺を呼ぶように!」

 それだけ伝えるとあとは自由行動だ。ジャックは全員が見える場所でこれから数時間、見守るだけの簡単なお仕事だ。


 子供は一斉に散会すると、思い思いの場所で虫取りを始めた。

 すると、しばらくして急に騒がしくなってきた。


「うひぃ! きもー」

「ぎゃーーーー!!!」

「いいから! 持ってこないでー!」

「なんでボクなのー?」

 騒がしいのは子供ではなく、ピクシーだった。


 どんな虫が捕れるのか覗き込んだピクシーが最初に悲鳴を上げた。その様子が面白かったのか、子供達が次々とピクシーにを見せにいくようになっていった……というのが事の顛末のようだ。


 子供はある意味残酷である。ちょっとでも弱みを見せた大人には容赦がない。でも、そんな時の子供達は実に楽しそうだ。

 という言葉があるが、ピクシーはうまく子供達と同じ目線になって楽しんでいる? ようである。そしてそれが子供達を楽しませることに繋がってもいるようだ。


 ジャックはそう思いつつ、自分は自分自身のが邪魔をして、ピクシーと同じように出来ないことに歯がゆさを感じていた。

 子供達もそのを敏感に感じ取っているのだろうか? ジャックには近づこうとしない。

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