第12話 町の有名人
翌日、目が覚めるとジャック達はニオンの町のちょっとした有名人になっていた。
商人の情報網は流石の伝達速度を見せ、昨日の出来事は既に町中に知れ渡っていた。それは朝食を運んできた宿屋の亭主も知っていたほどである。
「まぁこれが良い方に作用すれば言うことは無いんだがな……」
ジャックは運ばれてきたパンをかじりながらそう言うと、本日の主題に取り掛かろうとしていた。
主題というのはジオへのヒアリングだ。
「ジオ様。剣は何処にあるかご存じですか?」
ジャックは寝起きのジオに向かってそう尋ねた。
「うん? 剣なら、ここに……あるぞい」
よほど気に行っているのか、ジオはジャックが預けた剣を抱きしめながらそう言った。
「いや、俺の剣のことじゃなくて、昔ジオ様が使っていた……魔物退治に使っていた剣のことです。覚えていらっしゃいませんか?」
先ほどの受け答えならいけそうだ。そんな手応えを感じつつ、ジャックは更にもう一歩踏み込んでみた。
「だーかーらー! これが、わしの……剣じゃ。あげないぞぃ。なー?」
ジオは女の子がぬいぐるみを可愛がるように剣を抱きしめて放そうとしない。それどころか剣に話しかけてもいるようだ。
まぁそんなに都合良くはいかないか……とばかりにピクシーと目を合わせたジャックだったが、明らかに前進したという実感を掴んでいた。
「このままのペースで行けばきっとその内……」
ジャックは自分で言ったにもかかわらず、その内容がそら怖くなって固まってしまった。
昨日のようなことを今後もやり続ける……のか?
そう思った途端に
そんなジャックにピクシーが追い打ちをかける。
「ねージャック。宿の前にジオとジャックに頼み事をしたいっていう人達が列を作って待ってるよ。人気者だねー、お兄さん!」
ピクシーは満面の笑み、というよりケタケタ高笑いしていた。
「さて今日はどんなことをやらされるのやら?」
ジャックの気分はピクシーのそれと反比例するかのように沈んでいった。
朝食を取ると、ピクシーはジオを連れて宿の前の行列の整理に当たった。
当然同時に二つ以上の依頼は受けられないのだから順番をつけようという訳だ。
ジャックからすれば「全部受けるの?」という思いだが、ピクシーはそのつもりのようだ。
ひとしきり依頼を聞いてきたピクシーは、部屋に戻ってきてジャックに報告した。
「百人近くいたけど、その内二十人位は子供だったよ。依頼内容は大体同じで森でのボディーガードだって」
ジャックはそんな大人数が並んでいたことに驚愕したが、その内二十人の依頼が重複していることに胸をなでおろした。
それを聞いていたジオは嬉しそうに顔をしわくちゃにしながら言った。
「わしは……子供、大好きじゃ。子供の頼み、やるぞぃ……」
恐らくジオは若い時にこういう依頼を受けまくっていたのだろう。そしてそれが楽しい記憶として今でも脳裏に焼き付いている。
きっと同じようなことを追体験させることで当時の記憶が蘇る……そのついでに剣のことも思い出すかもしれない。
少なくともそう信じて進むというのが今のジャックの基本戦略である。そのついでにジオに幸せな気分も味あわせることが出来れば言うことは無い。
「じゃあ今日はその子供達からの依頼を受けるか」
ジャックは食事を終え、ナプキンで口元をふきながらそういうと支度を始めた。
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