第14話 ジャック、童心にかえる!?

 そのまま一時間ほどが経過しようとしていた……

 子供の一人が何かの気配を察知してジャックの名を呼んだ。

 見ると大きなイノシシがこちらを威嚇している。子供達も見ていることだし、追っ払うだけにしようとジャックは無造作に近づいた。そんなジャックの意図を知ってか知らずか、イノシシは猪突猛進とばかりにジャックに突っ込んできた。


 ジャックは反射的にそのイノシシを倒してしまったが、こういう残酷なシーンを見た子供達は更に自分から遠ざかってしまうのではないかと懸念した。


 しかし、結果はジャックの想像とは反対であった。


「すっげー! 一発だ」

「イノシシって強いんじゃないの?」

「父ちゃん達だったら逃げてたよな!?」

 それぞれの感想を口に出しあう子供達はジャックにといった雰囲気だ。


「ジャックは強いから何でも捕れるよ。捕りたい虫がいたら何でもジャックに言ってみてねー」

 それまでさんざん子供達の注目を集めていたピクシーはこれこそとばかりに、そのターゲットをジャックに擦り付けることを試みた。


 結果は大成功。


「えー じゃあ、あの背の高い木にとまってるカブト虫捕ってー」

「トンボ、トンボッ! 素早くて捕まえられないのー」

「ザリガニ! 捕まえようとすると威嚇してきて怖いのー」

 ジャックは一瞬にしてモテモテになった。これはピクシーの狙い通りだが、ピクシーは単に自分が子供達から解放されたいが為にやったことで、ジャックの為を思っての行動だったかは分からない。


 子供のリクエスト通りに虫を捕って、子供に手渡す……

 これを繰り返すうちにジャックの視線はこれまでの大人のものから、徐々に子供の高さにまで下がっていった。

 そうすることで子供達の態度も大人に向けたものより軟化して、より親し気になっていった。ジャックは口調こそ変わらなかったものの、そんな子供達と一緒に楽しい時間を過ごしていた。


「よーし。そろそろ帰るぞ。帰ったらイノシシ鍋だ」

 少し童心に帰ったとはいえ、ジャックは引率という立場を忘れてはいない。本来の大人の姿に立ち戻ってこう言った。しかし、以前のジャックなら機械的に要件を伝達するに留まっていただろうから、ジャックの中で「何か」が変わったのかもしれない。


「そういえばお爺ちゃんは?」

 思い出したようにピクシーが言った。

 本来ジオを楽しませるのが主目的で、子供の引率はその手段に過ぎないはずだった。


「本末転倒だ」

 ジャックは手で顔を覆って悔やむようにそう言った。

 ついさっきまで、確かにジオはニコニコしながら子供達の虫取りを眺めていたはず。いつの間にいなくなったのだろう? 取り敢えず子供達を町に連れ帰ったら探しに戻るしかない。そう覚悟を決めて歩き出すと、茂みからひょっこりジオが姿を現した。

 ジオはゆっくりと子供達の中に進んでいき、両手で大事そうに運んできたものを披露した。


「うわー綺麗!」

「俺知ってる。これって玉虫だよね?」

「初めて見た~」

「すげー爺ちゃん。どうやって捕ったの?」


 滅多にお目にかかることが出来ない虫を目の前に、子供達のテンションは一気にクライマックスを迎えた。ジオは顔をしわくちゃにしてそれを眺めている。


「最後に全部持ってかれたね」

 ピクシーが悔しさ半分、嬉しさ半分といった感情をこめてジャックにささやく。


 ジャックはその光景を見ながら、子供の相手もたまには悪くないな……と思っていた。しかし、ジオの為にやったことが自分の為にもなっていることに若干の戸惑いも感じている。


「まぁ仕方がないさ」

 ジャックは半分自分の為になってしまったとはいえ、ジオの満面の笑みを見るとまんざらでもなかった。

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