第44話 再び北へ

「いやー やっぱりこうなったね。またジャックと旅ができるなんて嬉しいなっ」

 数日しか間は空いてないものの、ピクシーのこのお気楽な感じがジャックには懐かしく感じられた。


「ところで何で他の奴じゃこの剣の力を引き出せなかったんだ? お前なんか知ってるのか?」

 ジャックは先ほどの謁見の間で冷や汗を流した理由を知りたかった。


「多分ジャックに言っても分からないだろうから言わなかったけど、魔法を使う時って精神を統一する……というか、誰かの為にっていう気持ちを強く持つ……というか、なにしろ気持ちの持ちようが大きく関係するんだよ。だからジャックには出来て、他の人には出来なかったんじゃないかな?」

 ピクシーは自分が魔法を使う時にほぼ無意識で行っていることを言葉にしようとした。しかし、的確な表現にすることは難しいようだ。


「じゃないかな? ってそんないい加減な根拠で俺の首は飛ぶとこだったのか!?」

 今振り返っても背中に冷たいものが流れる。ジャックはあの時ちゃんと剣の力が発動したことに再度感謝した。


「あははは、ジャックなら大丈夫だと思ったよ。今思い返すと、ジオはあの旅を通してジャックを鍛えてたんじゃないかな? 主にここをね」

 ピクシーはジャックの左胸を拳で叩いた。


 そう言われるとジャックにも心当たりはある。

 そもそもジオと出会う前にもあの剣を使ったことは何度かあったが、あんな力を発揮したことは無かった。それが今は発揮するのだから、変わったのは自分という事になるのだろう。


 そしてジオとの旅を通じて、自分の中で変わった……成長したのはピクシーが指摘する通り、精神面なのかもしれない。


「じゃあ俺も勇者ってことだな」

 ジャックは照れ隠しをするために冗談口を叩いた。


「ははー 勇者様。ともに参りましょうぞ!」

 ピクシーもその冗談に乗ってきて、二人はお互いの顔を見ながら笑ってしまった。


 さて、いつまでも冗談を言い合ってる場合ではない。王命が下ったとあれば速やかに行動に移さなければならない。

 幸い旅支度は済んでいるのですぐ出発できる。


「北部へはどうやって行く?」

 北部へのルートは元々一つしかなかったが、ジャックにはもう一つのルートが出来ている。ジャックの頭の中ではどちらのルートを取るかは決まっていたが、一応ピクシーにも確認を取ってみる……


「船は嫌っ!」

 あの悪夢が頭に焼き付いているピクシーは、瞬時に海路を拒否した。


 ジャックはルースの顔を見に行きたい気持ちもあったが、やはりピクシー同様船は勘弁願いたいと考えていた。


「じゃあ洞窟経由で行くぞ!」

 こうしてルートは瞬時に決定した。


 その一週間後、ジャックとピクシーはフリースラ、ベルゲン村を経由して、二往復目の洞窟をフィンドル村方面へと進んでいた。

 人は暗い洞窟内を松明だけで進むような雰囲気の中では、少し感傷的な気分になるものらしい……ジャックも例外ではなかった。


 この間は無我夢中で剣を振ったが、なるべくなら魔物とは争いたくないな……ジャックはノースフォーヘンで初めて魔物と出会った時のことを思い出していた。

 彼らはこちらから手を出しさえしなければ無害だったかもしれない。

 悪いのは人間側なのでは? という思いがジャックに芽生える。


 その思いがジャックにこの一言を吐かせた。

「平和に解決することは出来ないのだろうか?」


 実際魔物が全部でどの位いるのかは分からない。しかし、この剣を持ってすれば力で魔物を駆逐することは出来るかもしれない。王命という大義名分もジャックにはある。

 しかし「王命」を盾に自分の考えを曲げ、一方的に魔物を駆逐するという事に忸怩じくじたる思いをジャックは感じていた。


 洞窟を抜けたジャックはその後、フィンドル村、レーヘル村、リンテン村を経由して北部最大の町オスラに到着した。

 幸い、ジャックが通ってきたルート上に魔物達の陰は無かった。通りがかった三つの村でも、ホラント辺境伯が派遣した騎士団のお陰で被害は最小限にとどまっているようである。勿論その騎士団の本拠地であるここオスラでもそれは同じであった。


 ジャックはオスラに到着してまずは宿を取った。海路を使うよりは早いとはいえ、王都を出て既に二十日ほどが経過している。ジャックはまず旅の疲れを癒したかった。


 翌日にホラント辺境伯との面会が控えている為、早く寝ようと考えていたジャックは思いもよらぬ訪問者を迎えることになる。

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