第7話 ボケた勇者とお酒

「ん、ああ、ジオ様は昔からお酒が好きでね。今でも飲むとちょっとだけ元気になるんだよ」

 女将は嬉しそうにそういった。やはり声の主は勇者様のようだ。


「町の復興中は、明るい内は肉体労働、日が暮れたら仲間と酒場でどんちゃん騒ぎってのが恒例でね。今でも飲むとその頃を思い出すのかもしれないね」

 女将は目を細め、楽しかったあの頃を勇者様と同じように思い出しているようだった。


 もしかしたら今聞けば分かるかもしれない……ジャックがそう思うより早くピクシーは行動していた。


「おじいちゃん。勇者の剣って分かる? 昔おじいちゃんが持ってたやつ」

「ボク達それを探してここに来たんだ。今どこにあるのかな?」

 そんな早口でまくし立てたら自分でも答えにきゅうするだろうと思いつつ、ジャックは淡い期待をもって勇者様の口から出る次の言葉を待った。


「うん? 剣? ……そんな物騒なもん、持っちょらんよ……」

 ダメか……とジャックは肩を落とした。


 そのやり取りを見て女将は笑っている。

「ダメだよ。ジオ様は飲むと昔のことを思い出すことがあるけど、思い出すのは楽しかった時のことだけだから」


 それでも何の手掛かりもないのに比べたら大きな一歩が踏み出せたとジャックは感じていた。楽しい思い出だけだとしても、色々思い出す中に剣に関するヒントがあるかもしれない。


「でも……楽しいことを思い出すってのは悪いことじゃないよな?」

 ジャックは今の勇者ジオが置かれた状況に同情していた。出来れば晩年だけでも幸せに暮らして欲しい……いや、彼の功績を考えたら、それは当然の権利とさえ思えた。


「そういえば、あんた達はジオ様の剣に用があったんだったね。ジオ様をうやまう心は持っているようだし、一つヒントをあげようじゃないか」

 女将もお酒が入って若干警戒心が緩んだのか、更に重要なことを打ち明けようとしている。


「元気な頃のジオ様は、さっき言った通りお酒が大好きだったんだけど、それと同じ位に女も好きだったんだよ」

 口の前に人差し指を立て、ウィンクしてみせながら女将はそういった。確かにそんなことを言いふらしたら勇者様の印象が変わってしまいそうだ。


「と、いうことはー」

 ピクシーが何か思いついたように勇者様の前に躍り出ると、ポーズを決めてこういった。


「お酒を飲んでる時に美女が側にいたら全部思い出しちゃったりして!」

 ピクシーは目一杯セクシーに決めているつもりでも、人の目から見るとやや滑稽こっけいだ。


「あーー?」

 忖度そんたくすることを知らない勇者様の反応はにべもない。


「ちょっとー! 失礼極まりなくない? ボク結構サービスしたんですけどっ!!!」

 ピクシーはむくれていたが、確かに昔勇者様が訪れた町々に行ってお酒を飲んだり、たくさんの女性と会ったりすれば色々思い出すかもしれないとジャックは考えていた。


 その思い出す記憶の中に剣のヒントが含まれている可能性はあるはずだ。というより現状それしか手は無いように思われた。

 幸い勇者様を見る限り、長旅に耐える体力は持ち合わせていそうだ。


「問題は女将達の説得か……」

 ボケた老人を長旅に連れ出すなんて大抵の人が反対するだろう。ましてや敬愛する勇者様を……である。簡単に許してはくれないだろう。

 ジャックは若干の光明を見た気がしたが、まだ先には難関が立ちふさがっているであろうことを想像し、軽くため息をついた。

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