第8話 旅立ち……剣と記憶を求めて
勇者様を旅に連れ出すことはジャックの想像に反して、あっさりと認められた。
みんなが勇者様に、楽しかったことをもっとたくさん思い出して幸せな気分になってもらいたいと考えたのが理由の一つである。
ただ、決定打は勇者様自体が「行きたい」と言ったことだった。
翌朝、ジャックは旅支度を済ますと、ピクシーに事のあらましを王宮に報告するよう指示して勇者様を迎えに行った。
「それでは旅に出ましょう」
ジャックは晴れ晴れとした気持ちで勇者様に声をかけた。
「あー? た、び……?」
しらふの勇者様はボケ老人に戻っていた。
「そうだった……」
ジャックは頭痛の時そうするように片手でこめかみを押さえる仕草を自然に取っていた。
「まさか常に酒を飲ませておくわけにもいかんしな……」
流石に老人に酒を飲ませた挙句、長距離を歩かせたら殺人事件になってしまう。
とはいえ、徒歩で数日かかる距離を背負って……となると流石のジャックでもきつそうだ。
ジャックが頭を抱えていると、勇者様のお世話をしていた町の人達が車椅子を押してきた。道中は必ずしも平らな道だけではないが、あるのとないのでは全く違う程楽に移動が出来そうだ。ジャックは感謝の意を伝えると、勇者様を車椅子に座らせピクシーの待つ宿まで戻った。
取り敢えず宿までお試しで車椅子を押してみたが、ジャックにとっては苦でもなく、上半身の体重を車椅子に預けられる分、どちらかといえば楽であった。不快な点をあげるとすれば、腰に差した剣の柄が時折車椅子にぶつかることくらいだろうか。
「剣はおじいちゃんに持ってもらおうよ。もしかしたらそれで勇者の剣のことを思い出すかもしれないし」
ジャックの様子を見ていたピクシーは楽観的にそういった。
まぁ昔は剣を取って戦っていたのだし、車椅子に座っている状態で剣を持つこと位は問題無いだろう……そう思ってジャックはジオに自分の剣を委ねることにした。
「アリー」
剣を受け取り、それをじっと見つめたジオは突拍子もなくそういった。
「アリー?」
ジャックもピクシーもその意味を解しかねた。大事な剣を預けてくれたことに対する謝意なのか? これから旅に連れて行ってもらうことに対する感謝なのか? いずれにしてもイマイチ文脈が整合しない。
とはいえボケ老人の独り言である。あまり深い意味は無いのだろうとジャックは受け流すことにした。ピクシーはそのファンキーなセリフに親近感を覚えたのか、キラキラした視線をジオに送っている。
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