第30話 勇者の剣の秘密
「ところでさー」
朝食をとりながら思い出したようにピクシーが尋ねてきた。
「ボク達が探してる勇者の剣ってどんなものなの? ジャック知ってる?」
ピクシーが聞いてきた内容はジャックにとっては意外なものであった。
ピクシーは妖精族で、今回の任務のお目付け役である。要するに、使い走りのジャックとは異なり、より王様などに近いポジションにいる存在だ。しかしそんな基本的なことも知らされていないらしい。
「お前が知らないことを俺が知ってる訳がなかろう」
ジャックはそんな当たり前のことを今更……という気持ちだった。当然口調にもその色が強く滲み出る。
「やっぱりジャックも知らないのかー」
ピクシーはこう言って諦めたようだが、確かに考えてみると不思議な話である。
「勇者の剣」にはどんな力があるのだろうか? よく出来ていたとしても剣は剣でしかない。わざわざ王命にするところから察するに、北部で魔物が出没していることと関係があるのだろうが、たった一本の剣で全ての魔物を倒せるとは考えられない。
ただ四十年前の伝説では、ジオはその剣一本で魔物を魔大陸に封じたことになっている。
「魔法でも使えるようになるのかな?」
ありえない。ジャックはそう思いつつ、軽く冗談口を叩いた。
ピクシーはそれを聞いても、肩をすくめてため息をつくだけだった。
ジオはこの二人の会話が聞こえているのか、いないのか……黙々とパンをかじっている。
ジャックとピクシーはジオを宿に置いたまま、昨日老人達がいた公園に向かった。
すると今日も別の老人が数名散歩をしていた。
ジャックはその内一人に話しかけた。
その老人は復興期ではなく、魔物に襲撃されていた時のことを鮮明に覚えていた。
「魔物は常に三、四体が一組になっていてのぉ、こちらも同じかそれ以上の人数で組まないとまともに戦えなかったんじゃ。恐らくあんたの様な剛の者でも一人では無理じゃろう」
昔の武勇伝を語る時は、誰しもが気分良く話したいものである。
ジャックはそれを心得ていたので、途中で口を挟まず老人の話したいようにさせてやった。すると自慢話が少し続いた後に有益な情報を聞くことが出来た。
「……で、勇者様だけは複数の魔物を、そう三、四体だけではなく、もっと多くの魔物をその剣の一振りでやっつけることが出来たのじゃ!」
老人は正にその目でヒーローを目撃したのだという興奮を、何とかジャックに伝えようと必死で訴えていた。
「剣の一振りで大勢の魔物を?」
ジャックはその内容を計りかねていた。
老人の武勇伝はある程度話が誇張されるのが常ではあるが、ゼロからの創作になることは無いはずである。
しかし剣の一振りで複数の敵を倒すというのは、敵が並んで棒立ちでもしていない限り不可能なはずだ。
そんなジャックの疑問を知ってか知らずか老人はこう締めくくった。
「ホントにジオ様の戦う姿は我々を勇気付けてくれたものじゃ。あれこそ勇者。神の加護を受けた者のみに出来る御業じゃの」
「神の加護か……」
ため息交じりにジャックは呟いた。そんなものがあれば苦労はしないだろう……ジャックはそう言いたかった。しかし気分よくしゃべっている老人の心証をいたずらに悪化させるのは得策ではない為、それ以上の言葉はつなげなかった。
そこに近くのお婆さんに話を聞いていたピクシーが戻ってきた。
結果は昨日の恋バナの続きのような話だったようで、収穫は無かったようだ。
ジャックはピクシーに先刻の話を伝えてピクシーの感想を聞いてみることにした。
というのも、ピクシーは人間から見たら魔法ともいえる念話やヒーリングが使えるからである。ピクシーから見たら剣の一振りで複数の敵を倒すという話はどう聞こえるのだろうか?
「えー 作り話じゃないの?」
ピクシーの答えはにべもない。
ジャックはこの話を、いくつかある真偽の良く分からない情報と同様、頭の片隅に追いやることにした。
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